いま中国で若者の長江への身投げが止まらない~崩れても「壊れ」は押さえ込む「ステルス経済恐慌」の深層
明らかに病んでいるが
では、中国の若者はなぜ希望を失ったのだろうか。一言でいえば、報われない人生競争に失望して、生きる意味が感じられなくなったからである。都市部の若者は生まれてからすぐにエリート教育のレールに載せられ、勉強、勉強、勉強以外に楽しいことがほとんど経験したことがない。しかし、大学に進学して、卒業しても、生活は決して楽になるわけではない。とくに、3年間のコロナ禍は多くの若者に失望感をもたらした。 一方、農村の若者にとって現実はもっと苦しいものである。彼らは生まれつきで戸籍管理制度によって奴隷のような存在になっている。彼らがいくら頑張っても、都市部の若者と同じ市民権を得ることができない。3年間のコロナ禍で彼らの多くが失業しても、失業率にすらカウントされない。 中国社会は明らかに病んでいるが、テレビのニュース番組をみると、明るいニュースばかり報道される。公式メディアが伝える「真実」と若者たちが直面する現実のギャップは逆に若者たちを無力化させてしまっている。最近、中国社会で流行語になっている「躺平」(寝そべり)がある。それは人々が疲れてこれ以上頑張らないという意味の言葉であり、ある意味では、中国社会で漂っている無力感を如実に表す表現である。 3年間のコロナ禍の中国社会をもっとも如実に表す、ある笑えないジョークをみたことがある。 2022年上海は2か月半にわたって街封鎖されてしまった。そのとき、上海では、外出禁止令が出され、2000万人の商業都市はゴーストタウンと化した。そのとき、一人の若者は一人で街を歩いていたところ、警察官に呼び止められ、「なぜ外出するのか、街が封鎖されているのを知らないのか」と聞かれた。若者は「刑務所から釈放されたばかりで、街封鎖のことを知らなかった」と答えた。すると、警察官は「何をして刑務所に入ったのか」と聞いた。若者は「SNSで街が封鎖されるかもしれないと書き込んだら、刑務所にぶち込まれた」と答えた。 今の中国で、預言者がデマを流布したとして拘束され刑務所に入れられた事案が多く報告されている。日本にいる我々がみている状況よりも、中国で生活している若者たちが感じるストレスのほうが数十倍も数百倍も重いもののはずである。