是枝裕和監督、Netflixシリーズ『阿修羅のごとく』「誰もがその時代の旬の女優で撮りたいと思う作品」
きのう9日より動画配信サービス「Netflix」で配信がスタートしたNetflixシリーズ『阿修羅のごとく』(全7話)。数々の名作ドラマを執筆し、日本のホームドラマの礎を築いた不世出の脚本家、向田邦子の最高傑作として名高いドラマシリーズ(1979~80年)を、是枝裕和の監督・脚色によりリメイク。物語の中心となる四姉妹を演じるのは、長女・宮沢りえ、次女・尾野真千子、三女・蒼井優、四女・広瀬すず。是枝監督は「誰もがその時代の旬の4人の女優で撮りたいと思う作品」と語る。 【動画】ワークショップの課題にもなった第1話の家族会議シーン 向田さんは、エッセイも多数発表し、小説では直木賞を受賞するなどキャリアの最盛期にあった1981年、飛行機事故によって突然に生涯の幕を閉じた。しかし、彼女の影響は後世に広く及び、没後40年以上を経てもなお、その人気は陰りを見せない。 是枝監督も「最も尊敬し、いちばん影響を受けた人」とリスペクトしてやまない。自身が代表を務める映像制作集団「分福」に所属している若手演出家たちの勉強のために、『阿修羅のごとく』の台本でワークショップをしたこともあった。それが、今回のリメイクを企画した八木康夫プロデューサーに伝わり、連絡を受けた是枝監督は「この作品をほかの人には撮らせたくない」と監督を買って出た。 「ワークショップで『阿修羅のごとく』の第1話、父親の浮気が発覚して、次女・巻子の家にみんなが集まるシーンを演出するという課題を出したことがあったんです。四姉妹と巻子の夫、5人も登場人物がいると、自然に動かすのがかなり難しいんですよ。特に日本家屋って、一度座ると立ち上がらせにくいので。向田さんの脚本は人物描写が素晴らしくて、それをどう立体的に見せられるか、挑み甲斐がある。特に『阿修羅のごとく』は、誰もがその時代の旬の4人の女優で撮りたいと思う魅力的な作品だと思います」 向田さんが描いた『阿修羅のごとく』は、年老いた父の愛人問題をきっかけに、恋愛観も違えば、生き方も違う4人の姉妹が、対立し、感情をぶつけ合いながら、心底では互いを気にかけ、やがて手を取り合う、その泣き笑いが細やかに描かれた最上級の人間ドラマだ。 Netflix版で描かれるのは、原作と同じく1979年が舞台。 「もはや時代劇ですね。今回、本当に優秀な制作部がロケ地を見つけてきてくれましたけど、10年後は、同じ昭和の設定では撮れないかもしれないですね。特に東京は街の風景が変わりすぎて。でも、おそらくですが、『阿修羅のごとく』にはこの時代設定が必要なんです。母親は戦前世代。長女と次女は戦時中を覚えているんです。三女と四女は戦後生まれですが、四女は恋愛観も含めて80年代を先取りしているような現代的な生活へ向かっている。この時代のまたぎ方が絶妙なんです。これを現代にしようとすると、母親の世代ですらあまり価値観が変わらなくなってくる。さすがに嫁に行くときに、春画をタンスの底に入れておくみたいなこともないわけで、そういうディテールはもちろん、四姉妹の価値観もここまで多様に描けないと思う。時代設定を変えるなら、キャラクター設定も相当変えないとできないでしょうね」