是枝裕和監督、Netflixシリーズ『阿修羅のごとく』「誰もがその時代の旬の女優で撮りたいと思う作品」
時代設定だけでなく、「オリジナルが相当に完成度の高い作品なので、初めは脚本を一字一句変えずにやろうと思った」という。しかし、「実妹の向田和子さんにお会いした際、脚本は好きなようにしてくださいとおっしゃっていたので、少し手を入れてみようかと思い、脚色しはじめたら、4人の俳優たちのキャラクターに沿って書き加えていくことが楽しくなってしまった。それなら女性像そのものもアップデートしていこうと思ったんです」。 夫を亡くし、生け花の師匠として生計を立てる長女・綱子(宮沢)。会社員の夫や子どもたちと一見平穏に暮らす、専業主婦の次女・巻子(尾野)。図書館で司書を務める、恋愛に不器用な三女・滝子(蒼井)。喫茶店のウエイトレスで、ボクサーの卵と同棲する四女・咲子(広瀬)。 「オリジナルが作られた当時の時代の制約をとく特に受けているのが、夫の不倫に悶々とする専業主婦の次女・巻子です。彼女の姿は、当時としてはリアルだったかもしれませんが、今の視聴者が観た時見たときにいちばん共感しにくいキャラクターだと思いました。妻のいる男性と密会を重ねている長女・綱子のうしろめたさや、三女・滝子の男性経験の乏しさ、四女・咲子の男性に引きずられていく弱さも、今の視点から見るとそれぞれ少し気になるなと。それぞれが自分の人生を自分で掴みにいく、自分で肯定するといった主体性を前面に出したほうがいいのではないかと思ったので、そういう方向にアップデートしようと思いました」 アップデートするにあたり手本にしたのは、映画『バービー』(2023年)のヒットが記憶に新しいグレタ・ガーウィグの『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(19年)。 「参考までに『若草物語』を映画化した作品を全部見て、その中で『ストーリー・オブ・マイライフ』は女性の自立の話に着地させることで、アップデートに成功していた。もし、次に『阿修羅のごとく』をリメイクすることがあったら、女性の監督にやってもらったらいいんじゃないかな。きっと違うものが見えてくるような気がします」 撮影中は「毎日、楽しくて。四姉妹を演じた4人も、演じていて楽しそうでした」と振り返る。「キャストも含め作り手たちが楽しんで作った作品には、観る見る人を強くひきつける力が宿ると思います」と自信をのぞかせた。 今後については、「映画を撮ります」ときっぱり。「映画『怪物』(23年)の坂元裕二さん、『阿修羅のごとく』の向田さん、ほかの人が書いた脚本は、ここはすごく乗って書いてるなとか、ここは悩んだんだろうなといったことがすごくよくわかる。悩んだところをこう乗り越えていったのか、とか、プロセスに立ち合わせていただけたのはとても勉強になりました。これから自分で書くときの参考になるだろうし、自分の脚本をより厳しい目で見ようと思っています」と話していた。