「体の変化も徐々に受け入れた」という若村麻由美さん【インタビュー/後編】
2024年4月、東京芸術劇場で上演されるふたつの戯曲『La Mère(ラ・メール) 母』『Le Fils(ル・フィス) 息子』の両方に出演する若村麻由美さん。家庭にひとり取り残された母の孤独と、思春期の息子と対峙しきれない母の苦悩を、ふたつの舞台で行ったり来たり。『難役に挑戦するのは役者冥利に尽きる』と製作発表の場で言っていたけど、心身ともにハードな毎日が続くはず。50代半ばの今、俳優としての大きな挑戦を前に、体と心に向き合う心構えを聞いてみた。
無理のきかないお年頃です(笑)
〈俳優〉の中には、演じる役柄をひきずる人と、まったく別物として割り切ってしまえる人と、ふた通りあるみたい。若村麻由美さんはどうやら、とことん役に没入するタイプらしく。 「今回の『La Mère 母』と『Le Fils 息子』のようにずっしり重くて、簡単に問題が解決するわけでもない作品の場合は、自分の日常に影響してしまうことがよくあるんです。役をひきずるというよりも、稽古中からずっと、その世界観の中に生きている。 脳みそも体も休むことができないんですね。もしかしたら、更年期にいつもイライラしてるとか、ずっと気分がすぐれないままというのと、ちょっと似てるかも知れません。 若い頃はずるずるとその作品に引きずり込まれたままでいても、なんとか乗り切れたんですけど、今はやっぱり無理のきかないお年頃ですから(笑)。自分で自分をコントロールするように、どこかでちゃんと切り替えるということをしないと。この年齢になると、体も心も自分が思っているほど頑張れないことがたまにあるんです。 そうやって毎回、初めての自分に会うんだなって、それが年齢を重ねることなのかなって思います(笑)」
どうやってコントロールするか、というと。 「私の場合、まずはお風呂です。ちゃんと自分の心と体を解放できる時間としての、入浴です。そしてしっかり眠ること。そのふたつができないとダメですね。 舞台のことはいったん忘れて、今はお風呂に入る、今は眠るって念じながら。そのことだけに集中しないと」 もうひとつ、元気の素は食べること。 「食べるの、大好きなんです。好きなものを前にすると『あ、うれしい、食べたい!』って思う、その瞬間、細胞が活性化しますよね(笑)。 好き嫌いはなくて、なんでも好きなんですけど、野菜だったらトマトが好き。一年中食べてます。あと、ブッラータチーズ。モッツァレラと似てるけど、中に裂いたモッツァレラと生クリームが入っていて、より乳清を感じるというか。トマトとブッラータの組み合わせとか、好きですね。 お菓子だったらわらび餅も好きだし、あんみつも好きだし、プリンも。あ、フルーツも!」 ところで若村さん、ご自身の更年期、どうでした? 「私はわりと、仕事のこともあるので、人間ドックとかちゃんと検査を受けるほうなんです。更年期も気になっていたので、婦人科にも若い頃から定期的に通うようにしていました。そうしたらあるとき、こう言われたの。 『大丈夫です。順調にホルモンバランスが乱れてます。良かったですね』って。『すいません、もう一回言ってください』って、聞き直しましたよ(笑)。 50歳手前ぐらいから、ホルモンバランスが乱れるのが当たり前で、逆に一定のラインを保っていたのが急激に落ちるのが良くないらしいんです。急にいろいろな症状が出るんでしょうね。 でも私の場合は徐々に徐々に乱れて下がっていった。だから体が順応したのかな。これといった症状は出ませんでした」 なるほど。ゆっくりゆっくり変化していけば、体はそれに慣れてくれるというわけ。 「私、以前ヒマラヤのカラパタールという5545メートルの山に登頂したことがあるんですけど、そのときはやっぱり、酸素が少なくなっていくのを慣らしながら、高度順化しながら登っていくんですよ。それにちょっと似ているな、と思いました。 更年期もそうやって徐々に徐々に受け入れていくのが幸せなのかなって。どちらにしろ、受け入れなくてはいけないことなので。変化がガクッと訪れないように、順調にホルモンバランスが乱れるほうがいいみたいです」 でもそれって、自分でコントロールできることでもなくて。 「ですよね。だからこそ事前に自分の体を知っておくことが、ひとつの安心材料になるんじゃないかな。病院に行って、自分のホルモンの状態を把握しておくとか。 もし何か症状が出たとしても、更年期が原因だとわかれば、何もわからずにいるよりは、しのぎやすくなると思うし。お薬もあるわけだから、その都度、対応すればいいわけだし。知ることは、すごく重要だと思います」