スタートアップは地場産業。事業内容も人柄も見ない「けんすう氏」が、唯一大切にする投資基準
解像度が低く、思い込みでやるのは失敗のもと。とにかく顧客の声を聞け
加えて、スタートアップが成功するためには「解像度を高める」ことも大事だと話す。 「よく言われることではありますが、やはりお客さんの声をたくさん聞くことはとても大事だと痛感します。例えば、レゴの再生の話を最近聞いたんですが、一時期『潰れるかもしれない』と言われていたとき、とにかく子どもにインタビューをしたそうです。当時、レゴの人たちは『簡単に作れる』『自由にクリエイティビティを発揮できる』ことがレゴの価値だと思い込んでいました。ところが、子どもだちが求めていたのは『難しいものをやり遂げる達成感』だったんです。そこで、難易度の高いセットを投入し、説明書を見ながらプラモデルみたいに組み立てる形式を採用したところ、それが市場に受け入れられ、大きく成長しました。経営層の先入観だけで『楽しくて簡単で遊びやすい』方向に進んでいたら、今の成長はないですよね」 最後に、けんすう氏が今後やりたいことについても伺った。 「クリエイティビティが生まれやすい状況を作るのが、おもしろいと思っています。アルでは、着せ替えができるNFTを提供しており、本体や洋服をユーザーが自由に作れる仕組みを作りました。これにより、コミュニティ主導でさまざまなアイディアが生まれています。『そんな発想するんだ』『そんなの作るんだ』という発想の面白さは、日本ならではだと思います。また、AI技術の進化によって、動画制作などクリエイティブ分野の敷居が下がり、技術のない一般の人でもAIで簡単に動画を作れる環境が整いつつあります。新しいものが生まれて、技術がなかった人でも作れる環境を整えていきたいですね」 最初は、「事業内容や人柄はあんまり見ず、起業家と会ったら出しちゃう」と話していたけんすう氏だが、話を聞くと、日本ならではのクリエイティビティを活かしたコンテンツ制作やスタートアップは地場産業など、独自の考えを聞くことができた。世界を見据えるよりも、足元の価値に目を向けスタンスは、多くのスタートアップにとって貴重な示唆を与えている。 スタートアップが解像度を高め、顧客の声を聞きながら進化していく。そんな過程を重視する彼の考え方は、今後の日本のスタートアップが成功する上で大きなヒントとなるだろう。
文:吉田 祐基/写真:小笠原 大介