スタートアップは地場産業。事業内容も人柄も見ない「けんすう氏」が、唯一大切にする投資基準
外面が変わると内面も変わる。メタバースがもたらす影響力と印象に残る2社のスタートアップ
けんすう氏は、これまで日本の強みを活かして成長したスタートアップとしてカバー株式会社を挙げた。VTuber事業を通じて、新たな市場を切り開いた同社について、こう語る。 「カバー社の社長は私よりも年上で、VTuberという全く新しい産業を作り上げました。投資前に見せてもらったのが、中身は中年の男性だけど、外見はかわいい女の子のバーチャルYouTuberだったんです。その動画を見ていると、だんだん中の人の動きまで可愛くなっていくのが印象的で、人間は内面と外面が結びついているんだと実感しました。人間は情報空間で過ごす時間が非常に長いので、その環境から受ける影響によって性格や生き方まで変わる可能性がある。そう考えると、メタバースは人類史においても大きなインパクトを持つ技術だと思います。肉体と精神が分離した時に、大きなパラダイムシフトを起こす可能性があるなと」 メタバース関連で、もう1社注目しているのが株式会社NEIGHBORだ。フォートナイト内でメタバース空間を制作する同社に、けんすう氏はまず、試験的に100万円を投資したという。 「ニッチな領域だったので、絶対無理だろうと思ったんですが、断るのもなんか悪いので、とりあえず100万円を渡して専用のマップを作ってもらったんです。その結果、クオリティが非常に高く、主に日本以外のプレイヤー100万人以上が遊んでくれました。さらに、そのプレイ動画をTikTokに投稿した人もいたりして、それもさらに多くの再生数を記録したんです。その様子を見て、作品をPRしたい人にとってはすごく魅力的な場になる可能性があると思い、本格的に投資を決めました」 プラットフォーム全体を構築するのではなく、その上で展開されるコンテンツ制作に特化する姿勢が、けんすう氏には日本の強みとして映った。 「プラットフォームを作るとなると、規模やリソースでアメリカに勝てませんが、フォートナイト内でマップというニッチなコンテンツを作るのは日本人が得意な分野だと思います」 これまでのスタートアップ投資で学んだ教訓として、けんすう氏は「成功はがんばりや能力じゃない」と話す。 「優秀で頭がいい人でもうまくいかないことはありますし、逆に『本は読めない』というような、通常の学力が求められるところは苦手な人が成功することもあります。『これしかやらない』という執着で成功する人もいれば、諦めが早いからこそ成功する人もいます。超頑張ったけどダメな人もいれば、さほど苦労せずにうまくいく人もいる。つまり、よくわからない(笑)」 ただし、成功するには「自分や地域の土壌に合った挑戦」が必要だとも指摘する。 「植物が土壌に合わないと育たないように、スタートアップも環境や市場に適した分野で勝負することが大切だと思っています」 能力も頑張りも関係ない中で、これから成長しようとするスタートアップに対して、けんすう氏は次の2つアドバイスを送る。 「今、AIによって仕事を奪われる確率がすごく高くなっています。例えばライターのような職業では、生成AIを駆使して質の高い記事を作れるため、『仕事がなくなるかも』と感じる場面が増えています。一方で、生成AIの写真が便利でも、『この人に写真撮ってほしい』『面と向かって話しながらやりたい』といった気持ちは残るため、人間性がより重要になってくると思います。印象的だったのは2人の翻訳家から聞いた話です。1人は生成AIを活用して仕事が倍増した一方で、もう1人はAIの影響で完全に仕事を失い、廃業してしまいました。つまりは、AIによって仕事が増えている人と、仕事がなくなった人に分かれているわけです。この差は非常に怖いと思いました。おそらくは『この人に仕事を頼みたい』と思われる人には仕事が集中し、AIによって効率的にできるから量をこなせているんですが、その人が大量の仕事をできるようになったからこそ、他の人の仕事が減っているわけです。となると、AIを活用して業務効率化を高めると同時に、人間性を磨くことがこれからの時代には欠かせないと思います」