数十万羽のペンギンから14羽を探せ! 海鳥研究者が亜南極で挑んだ激むずミッション
◇足の爪が割れたことにも気づかずに歩いていた大晦日 マカロニペンギンとキングペンギン、そしてアホウドリ、さらに植物の研究者の調査にも同行し、計4回のmanipを経験した上坂さん。大晦日に歩いて過ごしたペンギン調査のmanipは、片道30キロの道のりを、1泊2日かけて移動したというが、なにしろ島の移動は足場が悪く、苦労の連続だったとか。 「僕は、西洋人のほうが体が強いとか、そういう話は信じたくなかったんです。でも実際、フランス人たちはすごく強くて、沼地や岩場のような場所をスタスタ、スタスタ歩いていくのには驚きました」 「manipのメンバーに学生の女の子がいたんですが、その子が途中で長靴を水没させたことがありました。そしたら“ちょっと履き替える”とか言って、クロックス(!)に履き替えて、そのままスタスタ歩いて行っちゃったんです。それを目の前にしたら、体の造りが違うのかなと。ちょっと悔しかったですね」 過酷なmanip中には爪が割れることもあったという。 「歩いているときは気づかなかったんですけど、休憩地点の小屋に着いたときによく見たら、爪が真っ赤になっていて……。爪って、こんなふうになるんだと思いました。1~2時間歩いて止まって、また1~2時間歩いて止まっての繰り返しがひたすら続きました」 黙々と歩くなかで役立ったのは現代人のお供、iPhoneだった。 「一緒に歩いていた3人のうち、1人がGPSを持っていました。たまに“今どこまで行った?”と聞いていたんですけど、まだこれしか進んでいないのかとガッカリしちゃうんですよ。 自分の中で“これは!”というタイミングまで待ってから聞いていたんですが、それでも絶望してましたね(苦笑)。歩いている時間は、島に来る前にiPhoneにダウンロードしておいたポッドキャストや音楽なんかを聴きながら、ただひたすら歩いてました」 ◇自分は研究者として「ラッキー」です 目的地のコロニーに到着すると、ようやく本業のスタートだ。海へとエサを捕りに出かけ、戻ってくるペンギンたちが研究の対象だ。今回の調査では、14羽のペンギンに機器を取り付けた。 「一人がペンギンを押さえて目隠しをして、別の人間がフワッと捕まえます。背中にカメラや速度を測る小さな機器を付けたら、“行ってらっしゃい”とリリース。ペンギンは必ず同じ場所へと戻ってくるから成立する研究ではありますが、コロニーには数十万羽のペンギンがいますし、帰ってくる時間が決まっているわけではないので、見つけるのは至難の業です。 観測機器や測位機器は、防水テープと瞬間接着剤を使って貼りつけます。通常、2~3週間で防水テープがヘタって取れますが、万が一取れなくても、羽根の生え変わり(年に一度)とともに自然と落ちるように工夫されています」 餌を捕りにいくペンギンはどのような動きを見せるのだろうか。 「太陽の光は、海面から50メートル以上の深さなると届かなくなってくるのですが、マカロニペンギンは50メートル以上潜ります。一方、キングペンギンは、コウテイペンギンに次いで2番目に大きくて、潜る深さも2番目。100メートル以上潜ります。 水中の映像は、ペンギンが見えないとされている赤色のLEDライトを照らして撮影しています。どんなふうに泳いで、水深何メートルの地点で魚を食べたのか、といったことも、回収したデータでわかります。そうしたことを解析していきます」 最後に、海外の島での本格的な調査を経た今、その実感と今後への思いを聞いた。 「研究者として本当に幸せです。最初に“行かないか?”と声をかけてもらったときから、ラッキーだなと思っていました。フランス人だったならさておき、日本人でこうしたチャンスが巡ってくるというのは、滅多にないことだと思います。大変なこともありましたが、楽しいことのほうが多かったです。 良い経験になりましたし、良いデータも取れたし、良いことづくめです。今年も12月末から、今度はケルゲレン諸島と同じく亜南極にあるクロゼ諸島にアホウドリの研究をしに行く予定でいます。研究者としては、1つ発見があると1つ疑問が生まれる。その繰り返しです」 「いいことづくめ」なのは、上坂さんのバイタリティーがあってこそ。上坂さんは、得意なことと好きなことをともに生かせる道を見つけた。 (取材:望月 ふみ)
NewsCrunch編集部