「自由に発言してくれていいよ」では不十分...上司が知るべき“本当の心理的安全性”とは
若者も中高年も「いい子症候群」な日本
――上司と部下が本音でコミュニケーションを取らない、主体性を見せないなど、太田さんが著書『何もしないほうが得な日本:社会に広がる「消極的利己主義」の構造』(PHP新書)で唱える「消極的利己主義」、金間さんが『先生、どうか皆の前でほめないで下さい:いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)で指摘する「いい子症候群」の風潮は日本に特有なのでしょうか。 【太田】厳密に言えば、海外でも中国の「タンピン族」(寝そべり族=競争社会を忌避し、高額消費、結婚・出産を諦めるライフスタイル)は「消極的利己主義」と似た部分はありますが、消極性は日本のほうが色濃いでしょう。 たとえば職場での消極性では、パーソル総合研究所が2019年に行なった調査によると、日本は「会社で出世したい」「管理職になりたい」人の割合が調査対象国のなかで最下位でした(図表)。 【金間】20代を中心とした若者の「いい子症候群」はどの国も存在するでしょうが、割合としては日本に多いと思います。僕が大学生を対象に「最も公平な分配方法」を尋ねた調査では、日本人の大学生は50%以上が「平等分配」(完全一律な分配)だった一方で、米国の大学生は過半数が「実績に応じた分配」でした。日本の若者は米国に比べて「横並び」を重視しているわけです。 「いい子症候群」は「消極的利己主義者」の卵のような位置づけにあるとも言えますが、彼ら彼女らは日本国内の都市部と地方で差が見られるのか、太田先生はいかがお考えですか。 【太田】消極的利己主義者は、地方よりも都会のビジネスパーソンに多いのではないでしょうか。地方はむしろ「一国一城の主」という意識が強いですからね。 【金間】同感です。僕もよく「いい子症候群は地方に多いですよね。消極的で外に出たがらない人が地元にとどまるんじゃないですか」と聞かれます。でもそうとも言えません。「いい子症候群」の若者は東京の大学に出て大企業に就職することが一番の安定だと考えているので、むしろ都市部に集まっている可能性もあります。 【太田】「いい子症候群」は若者だけではなく、安定志向という意味では中高年にも言えそうですね。 【金間】いまの若者は上の世代の映し鏡ですからね。「失われた30年」と言われますが、部下が上司に管理された主体性しか発揮できず、イノベーションが生まれにくい構造が浸透しているのは深刻な問題です。 【太田】最近、企業の管理職の人に話を聞くと、「仕事の地位・影響力を手放したくない」と露骨に言う人が増えている印象です。これでは若手社員のモチベーションが上がらず、静かに退職していくのも無理もない。 【金間】成長しているマーケットであればいいですが、市場が縮小しているのにイノベーションを起こせなければ、企業は急速に衰退していきます。部下が主体性をもたないことを上司が良しとする「均衡」を打破するためにも、社員のモチベーションや心理的安全性をシステム論としての視座から再検討したいところです。
太田肇(同志社大学政策学部教授),金間大介(金沢大学融合研究域融合科学系教授)