「自由に発言してくれていいよ」では不十分...上司が知るべき“本当の心理的安全性”とは
心理的安全性をシステム化せよ
――金間さんが提起された「オープンな関係」に関わる概念として昨今語られるのが「心理的安全性」です。組織のなかで自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態を意味しますが、どうすれば社員の「心理的安全性」を築けるのでしょうか。 【太田】そもそも「心理的安全性」を確保すれば若手社員が主体的に働くかというと、そうではないと思います。上司と部下という上下関係自体は変わりませんから。いまの若者はとくに「何もしないほうが得」な状態にあるので、わかりやすいメリットが必要でしょう。 【金間】よくわかります。僕も「心理的安全性」はメンタルの問題ではなく、システムの問題だと捉えています。上司にも一人の人間として当然感情があり、何を言ってもいいわけではないことを部下は理解しています。上司は部下に「自由に発言してくれていいよ」とただ伝えるのではなく、何を言ってもペナルティはないという制度を明文化するべきです。 【太田】上司と部下がより「対等な関係」に近づくためには、タクシーの運転手や証券会社の外務員のように、成果と連動した報酬制度を採用するのも一案でしょう。 【金間】評価する側である上司が、評価される側である部下に対して、「私はあなたのこの部分の評価に携わっている」という事実を示すべきですね。逆に他の点は評価者ではなくなることがわかれば、評価者・被評価者という関係は薄れます。 そういった点を曖昧にしたまま、「何を言っても大丈夫な場をつくろう」という号令は意味がなく、無責任だと思います。たとえば日本のメンバーシップ型の企業で、同じ管理職でも違う部署の部長には悩みを打ち明けやすいことがあります。 【太田】斜めの関係性ですね。 【金間】はい。役職に加えて、能力の上下関係の問題もあります。企業では基本的に、経験が豊富な上司のほうが部下よりも能力がある場合が多い。一方で医師や学者といった専門性の高い職種では、仕事の内容に最も精通しているのは医院長や学長ではなく、それぞれの専門分野の医師・学者本人です。 一般企業でも最前線に出ている社員の専門性を高め、上司や経営陣は彼ら彼女らのサポートに徹する。このようにヒエラルキーを反転させて逆ピラミッド型になればいいのですが、メンバーシップ型の組織が中心の日本で実現するのは簡単ではないでしょうね。 【太田】ヒエラルキーの反転で言えば、部下が上司を評価する制度を導入している企業もありますね。また「リバースメンタリング」といって、部下が上司のメンター役を担う仕組みもあると言います。国内では資生堂などが導入しているそうですよ。 ――組織が意思決定する際には、むしろ上下関係がはっきりしているトップダウンの仕組みのほうがスムーズに機能する面もないでしょうか。 【太田】もちろん組織である以上、最終的な意思決定権者は明確にするべきでしょう。部下に裁量を与えたうえで、部内で意見が割れてまとまらない場合は上司が決めるというように、どのような流れで意思決定するのかを社員同士で共有しておくことが重要です。 【金間】トップダウン型とボトムアップ型の良し悪しは、組織の目的によって変わります。 たとえばサッカー日本代表が「アジアカップで優勝する」という直近の明確な目的が定まっている場合は、森保一監督がトップダウンで指揮を執るべきです。ただし、その際に幹部は選手たちに、存分にプレーできるだけのリソースを投入する必要があります。 一方でボトムアップ型が力を発揮するのは「探索」の段階です。この大会に優勝するという短期の一点突破ではなく、たとえば「日本サッカーの地力を上げるためにどうするか」を探っているときは、選手自身に主体的に考えさせることがより重要になる。企業においても同じことが言えると思います。