都条例、子供の声“騒音”規制対象除外から3年―保育所設置環境変わったか?
東京都多摩市では、「市職員の子供を認可保育園に入園する特別な取り計らいがあった」という内部告発があったことが報道されて、波紋を呼んでいます。認可保育園に預けられるか否かで職場復帰が決まります。新年度の足音が聞こえてくる今、小さな子供を持つパパ・ママにとって、このニュースは他人事ではありません。 近年、認可保育園に入園するための活動、いわゆる“保活”が激化しています。待機児童対策が重要な政策課題になっている東京都でも、都をはじめ市区町村が保育所の新増設など対策を講じています。都内では認可保育園にくわえ、都独自の基準で開設される認証保育所などもあり、認可・認証保育所が少しずつ増えたことで以前より待機児童は減少傾向にあります。とはいえ、待機児童の完全解消にまで至っていません。 それでも都が取り組む待機児童ゼロへの道は、着実に前進しています。2015年に“子供の遊び声”を騒音としていた環境確保条例が見直されたことは、都における保育行政の転換点になりました。環境確保条例の見直しから間もなく3年が経過します。都の保育所を巡る環境は、どう変わったのでしょうか?
そもそも都の環境確保条例とは ──
1971(昭和46)年、都民の健康と快適な生活環境を確保することを目的にした公害防止条例が制定されました。同条例は、歳月を経て名称を環境確保条例に改めています。名称は変わりましたが、条例の趣旨に変化はありません。 同条例では、工場で稼働する機械音や道路を行き交う自動車の音とともに、「子供(未就学児童)の遊び声」が騒音に含まれていました。ほかの自治体でも、住民の生活を守るために騒音や振動を規制する条例はあります。 しかし、「子供の声まで、条例で規制しているのは都だけでした。なぜ、条例に子供の声が含まれていたのか、その理由は判然としません。条例を制定した当時、『子供の遊び声を騒音だ』という苦情が寄せられること想定していなかったんだと思います」と都環境局環境改善部大気保全課の担当者は話します。 都の環境確保条例では、都市計画法で定める用途地域によって騒音の規制値が異なります。第1種低層住居専用地域に区分されているエリアは、12種類ある用途地域でももっとも厳しい規制が設けられています。第1種低層住居専用地域は、主に低層住宅が建てられるエリアです。そのため、不特定多数の来街者が出入りするホテルや警察署・税務署等の開設も認められていません。これは、住環境を守ることを前提にしているからです。 第1種低層住居専用地域では、午前8時から午後7時までの間で45デジベル以上の音を騒音として規制しています。45デジベルは、例えるなら図書館の館内レベルの音です。保育所や公園で遊ぶ子供たちの声は、その数値を軽々と超えます。45デジベル以上の音を出すような保育所や児童館、子供たちが遊ぶ公園も設置できない状況になっていたのです。 こうした規制下では、実質的に住宅街で保育所を開設することは不可能です。かといって多くの通行人や自動車が行き交う商業地域、機械音が鳴り響き、大型トラックが走る工業地域ばかりに保育所をつくるわけにはいきません。 2013年末、都議会では環境確保条例の騒音に“子供の声”が含まれていることを問題視する発言が相次ぎました。舛添要一都知事(当時)も「健全に子供が成長するためには、大きな声を出して遊ぶ」ことは必要との立場を取り、条例の規制から“子供の声”などをはずすことを指示。都は条例の見直し作業を進めたのです。 「これまでの条例では、ほかの騒音と同じく子供の声も数値で規制される対象にしていました。見直しによって、子供の声や足音・遊具音などは数値規制の対象外になりました。とはいえ、子供の声が騒音ととらえられなくなったわけではありません。あくまでも、数値規制の対象から受忍制限という形に切り替わったということです」(同)。