【ミラノデザインウィーク】デザイン誌「カプセル」が仕掛けた“ラディカルな衝撃”
韓国のデザインデュオ「Niceworkshop」は「アルミニウムフォームワークシリーズ」と題した家具のコレクションを発表した。アルミニウムフォームワークとは建築現場で生のコンクリートを固めるためのアルミニウム製型枠を指す。再生に適した素材のため、コンクリートが成型された後のアルミニウムの型枠はコンクリートから取り外した後、再び同じような型枠に再利用される。一般の人の目に触れることの少ないコンクリートの型としてのアルミニウムに、家庭用品としての用途を与えたのが、Niceworkshopのデザインした家具コレクションだ。コンクリートから剥がされたアルミニウムの型をそのままラウンジチェア、ダイニングチェア、テーブル、ベンチに転用した。 アルミニウムのエスプレッソマシンも発表された。高品質なアルミスーツケースで知られるリモワが、イタリアの老舗エスプレッソマシンメーカーのラ・マルゾッコとともに制作したエスプレッソマシン。リモワを象徴するアルミニウムの溝が側面を覆い、特注の温水蛇口など一機に40時間かけて製造されるという。
ほかにも、ニューヨークとパリを拠点にするデザイナーのハリー・ヌリエフは1960年代に革新的なソファの数々を世に送り出したイタリアの家具ブランド、ポルトロノヴァから、キューブ型のウッド材を農作物を保護するための農業用シートで被い、完成させたソファシステムを発表した。黒いフィルムで被われた家具は配送するために梱包されたかのようで、置かれた家具を見ると、これから設置のために開梱するのかと思わせる。しかし、梱包も開梱する手間の必要ない、そのまま運んで、そのまま配置するという発想の家具。定住することなく、移動を繰り返すから引っ越し荷物を荷ほどきをするのも億劫だ、という現代人の心境をそのまま形にしたようなデザインだ。 中銀カプセルタワービルが誕生した時代に同じく現れたのがキオスクだ。1960年代、スロベニア人建築家のササ・マチテグがデザインした樹脂製のモデュラーブースK67は、現場で建てる建築物と異なり、工場で製造されたブースをそのまま家具を置くように街中に設置し、新聞販売やコーヒースタンドとして使うことができる、画期的なプロダクトだった。実験的な精神を現代にも吹き込もうと、ドイツのデザインチームK67 Berlinはキオスクブースを展示した。 今、SNSに触れているとアルゴリズムが自分の嗜好に合った提案を親切にしてくれる。そのため、自分の好みに合ったもの以外、目に入らなくなりがちだ。人を困惑させるようなアイデアが出しにくい世の中で、ラディカルであることは何を意味するのか。カプセルを立ち上げた建築家のポール・クルネの言葉が印象的だった。 「ラディカルの語源はラテン語で本質を意味するラディチェにあると言われています。抜本的な変化に挑もうとする精神が今、ラディカルなのではないでしょうか」 BY KANAE HASEGAWA