「民主主義罪」は禁錮245年 投票しただけで禁錮3時間 民主派裁判が映し出す香港の今 日曜に書く 論説委員・藤本欣也
徹夜で行列に並ぶのは一体、いつ以来だろう。11月17日夜、香港・九竜地区の裁判所の外で折りたたみ椅子に座りながら、亜熱帯とは思えぬ寒さに身を縮めていたとき、ふと思った。 1985(昭和60)年10月16日、東京・神宮球場で阪神タイガースが21年ぶりのセ・リーグ優勝を決めたヤクルト戦の前夜以来とすれば、39年ぶりか。当時は大学生で、民主主義について考えたこともなかったな…。 この香港の裁判所において、香港国家安全維持法(国安法)に違反した罪で有罪となった民主派45人に量刑が言い渡されるのは2日後のことだった。 ■傍聴券求めて 罪とされたのは、2020年7月、2カ月後に迫った立法会(議会)選の候補者を調整するため、民主派が実施した予備選に参加したことなどだ。 民主派は立法会で過半数の議席を確保し、政府に圧力をかけようとしたにすぎない。しかし中国共産党の影響力が強まる香港では、民主主義の根幹である選挙や議会活動が政権転覆行為とみなされ、〝民主主義の罪〟の量刑が焦点となっていた。 香港で裁判の傍聴者を決めるのは抽選ではない。早い者勝ちである。今回は被告が多い。それだけ家族専用の傍聴席が増える。残り少ない一般席の傍聴券を求め、早くも市民が列を作り始めた。香港入りしていた私はそれを聞き、押っ取り刀で裁判所に駆け付けたのだった。 わざわざ行列に並んだのは傍聴目的だけではない。香港では今、民主派の裁判を傍聴することさえ勇気がいる行為である。それをあえて傍聴しようとする人にも関心があったからだ。 行列の中で固まって座るおばさんたちがいた。20人以上いる。裁判を傍聴したいのではない。列に並んで手に入れた傍聴券と引き換えに、親中派から金銭をもらっている連中だった。民主派関係者が傍聴するのを少しでも妨害するのが目的だ。 私のすぐ前に並んでいた50~60代のおばさん3人は民主派の支持者だった。被告たちを元気づけようと、民主派関連の裁判をたびたび傍聴している。外国の総領事館員らに傍聴券を譲ることもあるという。「香港の実情を知ってもらいたいから。でも私たちは無償よ!」 ■恐怖と笑顔