「民主主義罪」は禁錮245年 投票しただけで禁錮3時間 民主派裁判が映し出す香港の今 日曜に書く 論説委員・藤本欣也
行列の数が一気に増えたのは3日目の11月19日、公判当日の朝を迎えてからだ。平日だったが、地下鉄やバスが動き出すと市民たちが続々と現れた。
ある女性は、裁判所前の行列を見て表情がパッと明るくなったかと思うと、すぐに手で口を押さえて泣き顔になった。
不安と恐怖を覚えながら裁判所に来てみたら、こんなにも多くの人たちがいた、みんな香港の民主化運動や民主派を忘れてしまったわけではないのだ―と感無量になったのだろう。
予備選のときもそうだった。「国安法違反の疑いあり」と当局が警告したのに、61万人が列をなして一票を投じたのだ。
「もし投票することが罪になるなら、投票した全員を逮捕すればいい!」。ある投票所で30代の女性が怒り心頭に発していたのを覚えている。
結局、裁判所には500人超が詰めかけた。が、一般用の傍聴席はたったの5席しか用意されなかった。残りの大半の人々は別の法廷でモニターを通して量刑の言い渡しを見守った。
「法廷に入れなくてもかまわない。傍聴に来たという私たちの存在が45人の支えになるはずだから」。民主活動家のこの言葉は11月19日、裁判所に駆け付けた市民共通の思いだろう。
■市民への刑罰
裁判所は45人に対し、禁錮4年2月~10年の量刑を言い渡した。閉廷後、被告の家族や友人らがどっと外に出てきた。目を真っ赤にした女性の姿もあった。記者たちが追いすがる。
その周りでじっと見ている男たちがいた。私服の警察関係者だ。目つきでそれと分かる。あちらにも、こちらにも…多すぎて数えるのをあきらめた。私もあとをつけられた。これでは中国本土と変わらない。
知己の民主活動家を見つけた。「今日の判決は予備選で投票した市民61万人に対する判決であり、市民への弾圧です」
45人の刑期を合わせると禁錮2946月。つまり45人が犯したという〝民主主義の罪〟に禁錮245年半の刑が下されたのだ。この活動家の言に従えば、投票した市民1人当たり禁錮3時間になる。投票しただけで3時間収監されるような場所、それが今の香港ということだ。(ふじもと きんや)