40代、50代の気持ちがラクになる「幸福学」講座/老後のために2,000万円貯まっていない私は、不幸になるの?
40代、50代の今を、老後もキープする必要はない
――幸福学でいうところの人の一生でいうと、若い頃は目に見える地位財を求めるけれども、年齢とともに、非地位財へと向かえるようにはできているのでしょうか? そうなれたら、人と比較せずにすむように思います。 基本的には、年齢とともに人は、地位財から非地位財へとシフトできるようになっています。実際、僕の母を見ていると、老後はそんなにお金を使わなくなっているんですよね。とりわけ家賃の高いところに住みたい欲求もないし、読書をしたり、時々花屋さんで花をちょっと買ってきたり、ご近所の人と趣味のことでつながったり。見ていると、お金はかけていないのに、とても幸せそうにしています。 ――お話を伺っていたら、なんだか癒されて安心感が湧いてきました。私たちも、そんな非地位財の幸せへと移行していきたいです。そこで気をつけたほうがいいことはありますか? 幸福学の見地では、人は年齢を重ねるほど生き方が利他的になっていきます。なのでお金の使い方も、自分のためだけではなく、他の人のためにも使っていきたい、と変わっていきます。ただ、やっぱり幸福も健康と同じで、格差は出てしまう。いつまでも地位財にしがみつき続けたり、人とつながらずに孤独のままでいたり、やりがいを見いだせずにいたりすると、非地位財の幸せにシフトすることに乗り遅れてしまう。そういう人も、残念ながらいないとは言えないんですよね。 ――年齢による変化とともに、お金の考え方についてもバランスをとっていくことが大切なんですね。手放すべきは、老後もずっと、「40代、50代の今と同じレベルをキープしなければ!」という思い込みかもしれません。 ですね。…というか、40代、50代の方は、今のレベルを保とうとしないほうが、むしろいいんですよ。初回でお伝えしたことを忘れないでくださいね。幸福学では、40代、50代は最も不幸を感じている世代なんですから。 ――あっ、そうでした!(笑)
【教えてくれたのは】 前野隆司さん 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授兼武蔵野大学ウェルビーイング学部長。1984年東京工業大学卒業、86年同大学修士課程修了。キヤノン株式会社入社、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。2024年より武蔵野大学ウェルビーイング学部長兼任。研究領域は、幸福学、イノベーションなど。 イラスト/midorichan 取材・文/井尾淳子