カブス108年ぶり世界一 “2つの呪い”を解いたエプスタイン
クリーブランド・インディアンズとシカゴ・カブスが激突した米メジャーリーグのワールドシリーズ。インディアンズは68年、カブスにいたっては108年も優勝から遠ざかっており、どちらもまたとない優勝のチャンスを逃すまいと懸命に戦ったが、ワールドシリーズ最終戦となる7戦目にカブスが延長10回に追加点を叩きだし、ファンが長らく待ち望んだ「世界一」を手にした。カブスは1世紀以上にわたってワールドシリーズ優勝とは無縁であったため、コメディ映画などで面白おかしく取り上げられ、プレーオフで敗退するたびに「ヤギの呪い」の存在について言及するファンやメディアは少なくなかった。カブスが優勝した背景には何があったのだろうか? 二度の「呪い」をといた42歳の球団副社長にスポットを当てたいと思う。 【写真】洒落?真剣?崖っぷちのカブスファンはヤギの呪いを解くためにどう奮闘?
映画のネタにもなった優勝できないカブス
シカゴ・カブスが最後にワールドシリーズを制したのは1908年。日本は明治41年で、日露戦争が終結してからまだ数年しかたっていなかった。この年のアメリカでは、7月に首都ワシントンで米連邦捜査局(FBI)が設立され、カブスがワールドシリーズでデトロイト・タイガースに勝利する10月には、デトロイト近郊で誕生したフォード社がT型フォードの販売を開始している。テレビ中継はもちろん、ラジオ中継もなかったこの時代に(アメリカでスポーツがラジオで取り上げられるようになったのは1920年代に入ってからだ)カブスは最後の優勝を果たし、以降100年以上にわたってワールドシリーズで優勝することはなかった。 優勝できない期間があまりにも長かったため、SFコメディ映画の「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」では、1985年から30年後の未来となる2015年にタイムトリップした主人公が町の巨大スクリーンでシカゴ・カブスのワールドシリーズ優勝を目撃し、驚くシーンがあった。余談になるが、バック・トゥ・ザ・フューチャーの1作目では、1985年の米大統領がロナルド・レーガン氏だと主人公が話すものの、1955年のアメリカではB級映画の常連だったレーガンが大統領になることを主人公の友人である科学者の男性が全く信じようとしないシーンがあった。そのレーガン氏は俳優になる前、アイオワ州のラジオ局でスポーツキャスターとしてシカゴ・カブスを担当しており、カブスの春季キャンプを取材するためにカリフォルニア州を訪れた際に映画関係者と会う機会があり、キャスターから俳優への転身を決心したのだという。 「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」ではシカゴ・カブスのワールドシリーズ優勝が描かれていたため、カブスファンは映画の予言を信じることにした。映画通りの展開をファンが期待するなか、カブスはナショナルリーグ中地区を3位という成績でレギュラーシーズンを終えたものの、シーズン中の勝率が高かったため、ワイルドカードに進出。ワイルドカードでピッツバーグ・パイレーツを破り、そのままの勢いでディビジョンシリーズでもセントルイス・カージナルズに勝利し、ワールドシリーズ進出をかけたリーグ優勝決定戦でニューヨーク・メッツと対戦することになった。多くのファンが映画の内容が実現化していく過程に興奮を隠せなかったが、カブスはメッツに4連敗。いわゆる「スイープ」という形で敗退したのだった。 映画のように2015年のワールドシリーズ優勝を果たすことはなかったカブスだが、今シーズンは圧倒的な強さでレギュラーシーズンを終えている。カンファレンスの戦力格差も指摘されるメジャーリーグだが、今シーズン100勝以上を記録したチームはカブスのみだ。USAトゥデイ紙によるとカブスの選手年俸総額は約160億円で、30球団中7位となっている。トップ3はヤンキース、ドジャーズ、タイガースの順となっており、ワールドシリーズでカブスと戦ったインディアンズにいたっては27位であった(約75億円)。インディアンズの倍以上となる資金力を持つカブスだが、高額年俸選手ばかりを集めるだけでは勝てないことは今シーズンのヤンキースが証明している。カブスの躍進とワールドシリーズ制覇には、42歳で球団副社長と編成最高責任者の肩書を持つセオ・エプスタインの存在抜きには語れない。