ユニクロ「柳井正氏に頼らない」仕組み化の中身 熱意だけでは従業員を変えることはできない
そもそも「個店経営」自体は珍しい発想ではありません。コンビニや総合スーパー(GMS)の一部にも2010年代中ごろから「個店経営」を目指す動きがありました。本部主導で、標準化された店舗を多店舗展開し、企業として成長を図る。そうしたチェーンストアの考え方をベースにしながらも店舗の役割を重視した組織運営を目指しています。 本部は企画立案機能を担って店舗がそれを実行する役割を担いますが、店舗は本部の指示通りにひたすら実行するのではなく、あくまでも店舗それぞれの商圏や顧客の特性、競合状況などに応じて、店舗ごとに動的に品ぞろえや売り場づくりを行う。ユニクロの「究極の個店経営」と重なります。
ただ、私の目にはGMSが個店経営をうまく実践できているようには映りません。既存の多くの店舗を大上段の方針(仕組み)を変えただけでガラッと一変させるのは簡単ではないからです。 ユニクロが特筆すべきは、「究極の個店経営」を実践するためにいくつかの仕組みを用意して、うまく機能させているところにあります。ユニクロが体制を一気に変えられた理由は、スタッフの教育の仕組みと雇用の仕組みを見直したところにあります。
店舗スタッフの教育はそれまでは店長に一任されていました。本部はノータッチで完全に店長任せなので、当然、教育にはバラつきが生まれます。教育に熱心な店長もいれば、ほとんど関心を示さない店長もいます。熱心でも教え方や内容は千差万別です。 そもそも、店舗スタッフは店長に言われたことを忠実にこなすことが仕事で、自分で考えることは求められていませんでした。店長が最前線である売り場に立ち、指揮官として、本部とコミュニケーションをとり、知恵を絞る。その施策を忠実に履行するのが店舗スタッフの役割でした。本部としても、スタッフ教育にそれほどコストをかける必要もなかったわけです。
「究極の個店経営」になっても組織図は一見変わりません。本部があって、店舗があります。スーパーバイザーやブロックリーダーと呼ばれる本部社員が、各店舗を支援する体制も変わりません。 ですが、誰が「主役」となり、どこを向いて働くのかが変わります。地域にいる店舗スタッフならではの独自の発想で、地域の顧客を呼び込み、その心をつかむことが成長のエンジンになります。 当然、店舗スタッフにしてみればマインドも行動も180度変わることになりますが、そうしたマインドや行動を教えられる店長はあまり多くいません。これまで現場教育に会社としてそこまで力を入れてこなかったのでこれは当然です。そこで、現場に任せ切りにするのをやめて、本部で仕組みをつくることになったのです。