なぜ後藤正文は藤枝に音楽スタジオを作るのか
ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文(Vo, G)がNPO法人「アップルビネガー音楽支援機構」を設立。この一環で静岡県藤枝市に音楽スタジオ「MUSIC inn Fujieda」を作る──。 【写真】音楽シーンの未来に向けて「MUSIC inn Fujieda」設立を決めたと熱弁する後藤正文 そのこと(参照:アジカン後藤正文が音楽支援を行うNPO法人創立「何度でもチャレンジできる場所を目指す」 )を報じた際、SNSではアジカンのファンはもちろんのこと、多くのアーティストや音楽関係者が後藤の理念に賛同するコメントを寄せていた。後世の音楽文化が衰退しないためにと、これまでも私設音楽賞「APPLE VINEGAR -Music Award-」を立ち上げ軌道に乗せたり、自身でレーベル・only in dreamsを主宰したりと尽力してきた後藤。アジカンとしての活動やソロアーティストとしての制作もある中で、なぜ彼はこれほどまでに文化事業や社会貢献に身を粉にするのか。そもそも音楽スタジオはどうやって作られるのだろう? なぜ利便性の高い首都圏ではなく、藤枝市という場所を選んだのだろう? 疑問が次々と湧いてきたことをきっかけに、音楽ナタリー編集部は後藤に「スタジオが誕生するまで追わせてほしい」と打診。本人の快諾を受け、このたび連載企画をスタートさせることにした。「『MUSIC inn Fujieda』ができるまで」と題したこの連載では、後藤正文がスタジオを完成させるまでを、本人や関係者インタビュー、現場レポートなどを通して追っていく。後藤はなぜスタジオ設立に奔走するのか? その理由を聞くことから取材は始まった。 取材・文 / 金子厚武 撮影 / 吉場正和 ■ 発想は「みんなのスタジオを作る」 ──まずはNPO法人「アップルビネガー音楽支援機構」設立の経緯について話していただけますか? 自分でレーベルを運営したり、友達の仕事をエンジニアとして手伝っているうちに、インディー界隈のレコーディング環境の問題に目が行くようになったことが最初のきっかけです。一緒に音楽を作ってみると、やっぱりドラムをはじめとしたベーシックレコーディングの部分で一番お金がかかる。自分のスタジオを開放して、ギター録りやボーカル録りを手伝ったりはしてきたんですけど、やっぱりドラムをいい音で録るにはある程度の空間が必要なんです。でも自分たち御用達のスタジオを持ってる人なんてごく一部で、働きながらバンドをやってる人は1年中スタジオに入れるわけでもない。最近は潰れてしまうスタジオも多いし、そういう場所選びの難しさは前から感じていたんですよね。 ──なるほど。 そうこうしてる間に音楽の聴かれ方も変わって。音楽ソフト中心じゃなくなって、みんながライブや物販に重きを置くようになり、活動における録音物の重要度が下がっているような状況への寂しさもずっと感じていた。それで自分がバンドの録音を手伝うときに、身近にもっといいスタジオがあったらいいよね、みたいな気持ちになったんです。そんなときにたまたまFacebookでつながっていた地元の友達が「藤枝市役所の空き家対策課に配属された」と書いていて、そのポストに「もし天井の高い倉庫みたいな場所があったら紹介して」と書き込んだことから藤枝通いが始まりました。 ──その中で明治時代から残るお茶の倉庫=土蔵を見つけて、レコーディングスタジオに改築することにしたと。 ただ、都内でさえ立ち行かなくなるスタジオが多くて、人件費もかかれば電気代もかかる。自分たちも従来通りのやり方でスタジオを作ってしまうと、あくせく営業をしなくちゃいけないだろうし、これは非営利じゃないと持続可能性がないなと思って、それでNPO設立を考え始めたんです。僕のプライベートスタジオを作るんじゃなくて、「みんなのスタジオを作る」みたいな発想の転換をしないと、このプロジェクトは実現しない。街歩きをして物件を探す中で地元とのコミュニケーションがいかに大事かも身に染みて、地元の人たちとNPOを立ち上げるのが流れとして一番いいんじゃないかと思ったし、幸せな場所になる確率が上がると考えたんです。 ──制作環境の変化という意味では、ツールの進化によって誰でも宅録でクオリティの高い音源を作れるようになったことも大きいですよね。 プラグインでドラムのループも組めちゃうし、フィルも実際に叩いたような音像で作れちゃうし、作った音にアビーロードとかオリンピック・スタジオで録ったかのような疑似リバーブも付けられるわけです。そうなってくると、ドラムのすべての打面にマイクを立てて、ブースのアンビエントも録ったり、これまで苦労してやってきた流れがレコーディングの華ではなくなって、どんどんミュージシャンがスタジオレコーディングをしなくなってくる。今の状況を10年も続けちゃうと、アビーロード風の音では録ったことがあるけど、実際のスタジオではどこから始めていいかわからない、みたいなことになるし、レコーディング技術の伝統が途切れてしまうと思うんです。一方でFoo Fightersの606スタジオに行ったら、LAのロックの伝統や文化があるわけですよ。「この人たちギターとドラムのことしか考えてないな」みたいな(笑)。そういうのはミュージシャンやエンジニアがスタジオで作業をしたり出入りしたりするうちに情報交換が行われて、体系化されていくところがあるから、スタジオの数が減ってしまうと、レコーディング文化の連なりみたいなものに接続する機会が減ってしまうと思うんですよね。 ──2018年に「APPLE VINEGAR -Music Award-」を設立して、賞金を贈るという形で若手アーティストのサポートを続けてきたわけですが、逆に言うと、そこだけでは補い切れない部分も見えてきた? もともと大賞の人だけをサポートしたいわけじゃないんです。ノミネートされた作品それぞれに讃えるべき達成がある。「比べなくてもいい」と言われたら本当にその通りで。例えば、スタジオを1日借りるとか、ワンランク上のマイクを買うとか、そういうことでインスピレーションが湧く瞬間があるはずなので、賞を始めた頃は自分たちの財力と照らし合わせて、賞金という形でサポートをするのがいいんじゃないかと思ったんです。でも、賞を長く続けてると、大賞には選ばれなかったけど、本当はこの人たちのことも同じぐらい支援したいんだけどな、という気持ちが出てきて。 ──当初は「大賞」のみだったけど、途中で「特別賞」を作って、大賞の人以外にも賞金を贈るようになったのは、まさにその気持ちの表れだったわけですよね。 そうなんです。本当は全員を支援したい。そういう考え方でいくと、やっぱりスタジオを作って、例えば、「ノミネートされた人たちは何日か無料で使えます」という支援にしたほうが、より広くバックアップできるというか、むしろそっちのほうが自分がやりたかったことに近いんですよね。賞を作りたかったというよりは、若い人たちが評価されて、もう1つチャレンジできる環境や流れを作りたかったので。 ──だからこそ、まずはレコーディングスタジオの建設を軸にしつつ、NPO法人としていろんな方面からインディーアーティストをサポートしていこうと。 何ができるかはその都度考えていかなきゃだし、何があったら幸せなのかをみんなに聞いてみたいとも思います。支援は一方的にすればいいものではないし、「お腹は減ってないけど、やたらと食事が用意されてる」みたいな不幸もあるじゃないですか。「こういうサービスや援助があったらみんな助かるよね」というのをみんながそれぞれの場所で言葉にすると、広く認知されていく。そういうきっかけでもありたいと思います。資金的な規模が大きいわけじゃないから、文化庁がちゃんと賞を運営するなら、そっちのほうが早いのかもしれないですけど、文化の基本はボトムアップというか、そもそも「音楽って私たちのものじゃない?」と思うんですよ。カルチャーは上から与えられるものじゃなくて、自分たちの生活やストリートから積み上げるもので、それ以外はないんじゃないかと思う。で、時折その中から成功する人が出てくる。成功した人たちはカルチャーに還元するべきだと思う。そういう循環がないと、ただただこの世界のあり方にならって、数%の富豪が世界中の富を独占していく流れと相似形になっちゃう。僕がやりたいのはそういうことではないので、「みんなでシェアしよう」という気持ちなんですよね。 ■ 僕は死後、スタジオに霊として出ますよ ──明治に建てられたお茶の倉庫を改修してレコーディングスタジオにするという発想は、歴史好きの後藤さんらしいなと感じました。 ぶっ壊して作るのは、時代的になしだろうなと思ったんですよ。スクラップ&ビルドはもう駄目で、いかにしてデストロイから街を守るか、そういう戦いになってくる。愛着がある風景を壊して、便利がそのまま形になったような建物に建て替えてしまっていいのか、という気持ちがあるんです。土蔵に関しても、実際は壊して建て替えたほうが費用が抑えられるし、頑丈で広いスタジオは作れるだろうけど、本当にそれでいいのかな?と思ったんですよね。Music inn Fujiedaは“みんなのスタジオ”にするわけで、最終的に何が望みかというと、僕が死んだあともみんなが直しながら使い続けてほしい。それが理想だとすると、新しいものを建てるよりも、明治に建てられた蔵のほうが圧倒的にこの地に馴染んでるし、地域の人が普段歩く散歩道の景色の1つだし、これは大事にしなきゃという気持ちも芽生えやすい。たまに道路の真ん中にでかい石や岩があって、どけようとした人が呪われます、みたいなのあるじゃないですか。願わくば、そういう感じのスタジオになったらいいな(笑)。 ──呪われたら困りますけどね(笑)。 でも、「潰したら祟られる」みたいなのも大事な民俗学的要素な気がして。新潮社に作家たちがカンヅメに使う「新潮社クラブ」という建物があるんですけど、そこには文豪の霊が出るから新潮社も潰せない、という話があって。だから僕は死後、スタジオに霊として出ますよ(笑)。 ──Music inn Fujiedaはその名の通り滞在型のスタジオであることもポイントで、宿泊施設が併設されて、ワークショップや地域交流を行えるコミュニティスペースも作るそうですね。そういった場所で後藤さんの霊について語られる日が来るかもしれない(笑)。 県外の人が日帰りで静岡に行くのは大変だし、泊まってもらう以外に方法はないと思ったんです。だから滞在型がいいだろうと。若いうちに寝食をともにして音楽を作る時間って、すごく大事なんですよね。みんなでいろんな話をしながら音楽に取り組むことはとても貴重で。特にそれを20代とかの若いうちにやるのと、僕ら40代のおじさんが泊まりに行くのとでは違う何かがあるから、そんな場も提供できたらなって。山中湖や河口湖の近くにあるスタジオは周りに何もなくて、コンビニまで車で20分くらいかかるけど、藤枝の場合はコンビニだったり、気分転換に使えるような場所も近くにあるから、行き詰まらずに、リラックスしながらレコーディングができることも魅力の1つだと思います。 ──ミュージシャンだけではなくて、一般の方にも使ってもらえるようなイメージだそうですね。 ゲストハウスを作る予定でいます。スタジオを応援してくれる人が泊まりに来たり、あるいは普通に静岡に旅行に来た人たちにも利用してもらえたりしたら、その利益がNPOの持続可能性を高めてくれると思います。今後の活動を考えると、正直スタジオ以外でも収益を得る場所が欲しいんですよね。もちろん、藤枝市は駅前まで行けばホテルもいっぱいあるから、そっちを使ってもらってもいいですし。 ──スタジオ建設には地域活性化の側面もあるわけですよね。それこそ若いミュージシャンはスタジオ併設の宿泊施設を使って、多少余裕のある社会人のバンドだったら、駅前のホテルに泊まって、おいしいごはん屋さんに行ってもいいだろうし。 その方面のマックスは焼津の温泉宿でしょうね。車で20分くらいで、十分通える距離なので、温泉通いをしながらレコーディングもいいんじゃないですかね。 ■ 儲けようと思ってこのプロジェクトはやってはいない ──スタジオ設立にあたってクラウドファンディングを実施することになった経緯についても教えてください。 自分の資金だけで成し遂げるのは無理だなと思ったし、かといってこれを借り入れでやったら、そんなに安く貸せなくなるので、これはクラウドファンディングでみんなの協力をちょっとずつ得ようと。その分こっちの誠実さが問われるわけですけど、それでいいんじゃないかと。儲けようと思ってこのプロジェクトはやってはいないですから。代表理事を引き受けてくれた小林亮介くんは最近転職をして大変な時期なのに、無償でがんばってくれて、むしろ僕よりスタジオのことを方々で熱く語ってくれたりしてるんですよ。愛を持ち寄ってやるしかない場所だから、「お金が足りないです」と率直に公開したほうが活動としてもすっきりするし、実現の可能性も高まるので、これはもうみんなに協力していただこうという気持ちになりました。蔵だからクラファンみたいな、ダジャレ的に思いついたわけではないです(笑)。 ──蔵を保存したまま改修工事をするのはすごくお金がかかる。それが「5500万」という目標金額の設定になっているわけですよね。 蔵自体は基本的に自立しているのがやっとの建物で、防音を施されたスタジオはすごく重たいから、土蔵が資材の荷重に耐えられなくなってしまうんです。なので一度蔵をジャッキアップして、基礎を作り直して、その上に蔵を戻し、それから内側の工事をする。構造的にはスタジオは蔵には触れていないんです。触れると振動が伝わってしまうので、蔵の中にスタジオが浮いている構造を作る。なので、その分費用もかかるんです。 ──現状では4500万円を突破して、約2300人からの支援が集まっています(11月上旬取材時点)。 ありがたい限りですね。こんなに集まると思っていなかったし、もしかしたら借金だな、みたいな気持ちもあったので、本当にありがたいです。ただ5500万には機材費が含まれていなくて。僕がこれまで集めた機材を提供しつつ、スピーカーとかは資材の高騰と円安で各社が値上げする前に注文だけ済ませたので、これから支払いの請求が自分のところに来ます(笑)。でも、最初から使いやすいスタジオなんて絶対なくて、最初の3年ぐらいは録音したみんなにいろいろ教えてほしいし、「ここにこれを置いたら音がめちゃくちゃよかったです」みたいことを一緒にシェアしてくれる人たちが集まってくれたらうれしいなって思います。この先3年とか5年とか、みんなで使いながらブラッシュアップされていって、藤枝サウンドみたいなものができるのは10年後ぐらいだと思う。 ──いいですね。いろんな人が介在していくことによって、将来的には藤枝サウンドが生まれていくかもしれない。 「あのバンドがこういう録り方をして、こんなにカッコいい音が録れた」となったら、絶対みんな真似すると思うんですよ。「ここにマイクを立てたんですね」とか「天井の張りから吊るしたんですね」とか、そういうことがスタジオの文化になっていくと思う。最初はただのまっさらな箱で、どこに作ってもスタジオの構造自体はそこまで変わらない。藤枝は天井が高いというアドバンテージはあるけど、そこから先は実際に使った人たちのアイデアが大事というか。関わってくれてるエンジニアの古賀(健一)くんや岩谷(啓士郎)くんも含め、みんなが現場で培ってきたものを一旦全部出して、「今はこれがベストだね」というチューニングをしますけど、そこから先はもっとよくなる方法をみんなで考えていくしかないし、むしろそういうスタジオでありたい。「私たちのスタジオだ」と思ってくれる人が増えていくのが、このスタジオの理想型なので。 ──クラウドファンディングもそのための一歩になりますよね。 そうそう。弱いけど愛のあるつながりというか、しがらみまでいかない感じの、弱いつながりがあるといいんじゃないかな。つながりが強くなると新しく来る人を拒むようにもなって、それはそれである種の治安をよくしたりもするけど、結界が強すぎると新しい人が誰も来なくなっちゃって、居心地が悪くなったりもする。場作りは本当に難しいと思うけど、みんなが来やすくて、出てもいきやすい場所になっていくといいなと思います。ある種のトーン&マナーは必要で、「マイクはこんなふうに使っちゃいけない」みたいなルールはあってほしいけど、トップダウンではなくて、みんなで話し合いながら使ってほしい。きっといろんな考え方の人がいるから、多様性と向き合う場でもある感じがします。ちょっとしたトラブルは絶対起きますもん。それで「後藤さん、ちょっと謝りに来てください」ということも絶対あると思うから、もう謝る練習しておこうと思って(笑)。 ■ 「MUSIC inn Fujieda」はみんなで新しい価値観について考える場所 ──今後の予定としては、11月に工事契約が完了予定、12月にスタジオ工事着工予定とのことですが、現在の進捗はいかがですか? そろそろ蔵の補修の着工はしたいんですけど、まずは近隣の住民の皆さんにしっかり説明をと考えています。スタジオ自体は音が漏れないように細心の注意を払っているという報告と、補修のときには重機の騒音が出たりするでしょうから、そういった事前説明を丁寧にしながら、年内に蔵の補修から始めて、最初は揚屋(あげや)ですね。蔵を持ち上げて直すところから始めて、来年にはスタジオの防音の工事、夏ぐらいまでには竣工という形を迎えて、そこから今度は機材を入れる流れになると思います。 ──クラウドファンディングは12月15日まで行われますが、リターンに関しての現状はいかがですか? 僕が直筆で宛名を書くのがあっという間に売り切れて、文字を書くのはけっこうカロリーが高いのでこれ以上増やせないのが申し訳ないですけど、うれしかったですね。あとFOSTEXさんに提供してもらったヘッドフォンも1台20万にもかかわらずあっという間になくなったので、それもありがたいです。応援してくれた人の名前が載る銘板に若干の空きがあるので、個人でも企業でも団体でも参加していただけるとありがたいなと思いますし、中村佑介くんとのトーク&ライブのチケットもまだまだ余ってるんですけど、藤枝を訪れるいい機会だと思いますから、いらしていただけるとうれしいです。トーク&ライブの開催時期が桜の季節なので、運がよければ川沿いの桜が咲き始めるかもしれない。あとパンフレットは今企画中ですが、スタジオのコンセプトブック兼藤枝のガイドブックにしたいなと思っていて。パンフレットと書いちゃったので、「これなんだろう?」と思ってる人もいるかもしれないけど、すごく読み応えのあるものになる予定なので、オススメしたいなと思います。 ──では最後に改めて、NPO法人としての今後の展望を聞かせてください。 これはスタジオ作りだし、コミュニティ作りでもあるけど、みんなで新しい価値観について考える場所なんじゃないかなとも思ってるんですよね。すべての価値をお金に換算する、そういう価値観で物を測る習慣が浸透してますけど、僕らの生活の中にはいろんなところで贈与や相互扶助が行われていて、このインタビュー自体もそうですけど、額面だけでは測れないやりとりがあるじゃないですか。スタジオの運営はミュージシャン支援でもあるけど、それが街作りと絡むことによって、どういう変容が起こせるのか。もしかしたら街の中の音楽から離れた場所にも同じような価値観が広まっていくかもしれない。何もかもが対立して、分断しているように見える世の中で、新しいつながり方を作っていかなきゃいけないと思うし、音楽にはそういう立場の違う人たちをつなぐ力があるはずなんです。まだ具体的に言い切れない部分もあるというか、言い切った瞬間にトップダウン感が出ちゃうので、むしろみんなで考えたい。「こんな場所があったら面白くない?」みたいな話を地元の人ともしたいし、訪れてくれるミュージシャンともしたいですね。 ──サポートをしてくれた人たちともそういう関係性が築けていければいいですよね。 これがうまくいったら、模倣する人たちが出てくると思うんですよ。ポップミュージックは基本的に引用と模倣の歴史だから、面白い取り組みは日本中でやったらいいと思うし、僕たちもほかの団体の面白いことを見て参考にしてるし、そういう1つのロールモデルになれたら最高だなと思います。ただ現状はそんなことを言っていられないぐらい必死なので、ひとまずはスタジオを立てることが目標ではあるんですけど。 ──その過程を、この連載で追いかけさせていただきます。 連載がだんだん暗くなっていかないようにがんばりたいと思います(笑)。 ■ 「APPLE VINEGAR -Music Support-」最新情報 滞在型音楽スタジオ「MUSIC inn Fujieda」設立に向けて、2024年12月15日までクラウドファンディング実施中。目標金額は5500万円。 ・「APPLE VINEGAR -Music Support-」クラウドファンディングページ ■ プロフィール □ 後藤正文(ゴトウマサフミ) 1976年生まれ、静岡県出身。1996年にASIAN KUNG-FU GENERATIONを結成し、2003年4月にミニアルバム「崩壊アンプリファー」でメジャーデビュー。2004年にリリースした「リライト」を機に人気バンドとしての地位を確立させる。バンド活動と並行してGotch名義でソロ活動も展開。the chef cooks me、Dr.DOWNER、日暮愛葉らの作品にプロデューサーとして携わるなど多角的に活躍している。文筆家としても定評があり、これまでに著作に「ゴッチ語録」「凍った脳みそ」「何度でもオールライトと歌え」などを刊行した。ASIAN KUNG-FU GENERATIONはライブハウスツアー「ファン感謝サーキット」を開催中。 ・APPLE VINEGAR -Music Support- ・Gotch / Masafumi Gotoh(@gotch_akg)|X