M―1連覇、令和ロマン高比良くるまが語る漫才理論 〝過剰考察〟がベストセラーに「僕には世界を表現する自分がない」
漫才王者を決めるM―1グランプリで初の連覇を達成した令和ロマン。その向かって左側、ボケ担当の高比良くるまさんが漫才の構造や創作方法を言語化した「漫才過剰考察」(辰巳出版)を2024年11月に出版した。V2翌日に3万部の増刷が決まり、トータル5刷り10万部のベストセラーとなっている。1万組を超える参加者による争いを勝ちきった根底には何があるのか。インタビューに応じ、その思考過程を語った。(共同通信=中村彰) 【写真】「令和ロマン」が大会初の連覇 漫才M―1グランプリ
▽「自分は天才ではない」。認識からスタートした分析 くるまさんはまず「自分は天才ではない」という自覚を持っている。自分と対照的な例として「漫才過剰考察」で対談した霜降り明星の粗品さんを挙げた。「粗品さんって自分がめっちゃある人、自分を世界に表現する人。僕には世界を表現する自分がない」と話す。 そんな自分が漫才で人を引きつけるにはどうすればいいのか。分析し、考え、システム化した方法論が「漫才過剰考察」だ。 粗品さんをはじめ、同期や先輩たちの中には「これを表現したい」という強い気持ちでお笑いに取り組んでいる人々が多くいる。くるまさんはそんな衝動ともいえる強いモチベーションにあこがれる一方で「自分にはその衝動がない。M―1グランプリというルールのある大会で勝つためにはこういうことをやろうと考えるしかなかった。結構、逃げみたいなところがあった」と振り返る。 当初から「客観的に見ることは大事」だと思っていた。「自分を主人公に置けないというか、周りの目を気にしちゃう」。そんな自分について考えているうちに「自分の視点がメタ的(客観的)である」と気が付いた。ほかの芸人も含めネタの構成、劇場でのウケ方などを無意識のうちに分析していった。
▽義務教育の最高傑作と、吉本興業の最高傑作 自分たちが今ある立ち位置の根底にあるのは、所属する「吉本興業のすごさ」だという。「僕は与えられた課題を解いてきただけ。『劇場に所属するにはこのライブに出てください』『このライブでお客さんと審査員票を取ると一個上に上がります』『M―1で何回戦以上に行ったら地方の劇場に呼ばれます』とか、人生ゲームのように作ってくれてるんです」と話す。「僕、それをめっちゃやってるだけで、その中で1位だぞ、頑張ったぞって感じなんです、吉本の準備した素晴らしきシステムの中で」 相方の松井ケムリさんとは慶応大学のお笑いサークルで出会った。ネタ作りではケムリさんにアイデアをぶつけると、間を置かずに的確な答えが返ってくるという。「彼は義務教育の最高傑作です」とくるまさん。「いいおうちで中高一貫からいい大学に行かせると、こういうまじめかつ聡明(そうめい)な人間になれる。世の教育ママが目指すべき形」と評する。「与えられたものを100%で受け取れる。受容体がしっかりしている。だから一緒に進める」と相性の良さを話す。「でも僕は吉本興業の最高傑作。歴史のたまもの」とも自任する。