中国がタイで「クラ地峡」運河を建設? 実現可能性はあるのか
中国は「クラ地峡」で運河を建造する?
5月14日に広州のメディア『南方日報』が「中国がクラ地峡運河プロジェクトの覚書に署名した」と報じました。その翌日からインターネット上で情報が拡散し、たちまち国内外からの関心を引きつけました。しかし、中国政府はクラ地峡での運河建設にかかわる計画はないとこの情報をきっぱりと否定し、タイ政府もまた関与を否定しました。全長102キロ、幅400メートル、水深25メートルの運河をクラ地峡に建造するという計画は、中国の民間の人によるスタンドプレイであったというのがどうやら真相のようです。 いわば、デマともいえる「クラ地峡運河プロジェクト」がここまで注目された背景には、昨年後半より「一帯一路」構想や「AIIB」創設といった中国の積極的な他国への開発援助の動きが注目されていたことが背景にあります。その他にも、昨今の中国国内の投資市場の活況、南シナ海における中米の軍事的対立の鮮明化といったいくつかの要素もありました。このため、中国国内に限らず海外でも「クラ地峡運河プロジェクト」はリアリティのある計画だと受け止められました。
もし「クラ地峡」運河が実現したら?
昨年12月、中米ニカラグアでカリブ海と太平洋をつなぐニカラグア運河が着工されました。この建設工事は香港の企業が請け負っていますが、その背後で中国の人民解放軍や中国政府が影響力を握っているといわれています。建設費用が500億ドルともいわれるこのプロジェクトは着工時こそ注目を集めたものの、現在のところはかばかしい進展は見られていません。資金調達難などの問題があるのではないかといわれています。 こうした事例から、クラ地峡運河建設に中国が着手する、あるいは、着手したとしても実現できる可能性についてはまだ何とも言えないというのが現状です。しかしながら、ニカラグア運河に比べてクラ地峡運河は規模も小さいので、例えば、将来的に「AIIB」が動き始め、中国一国の支援ではなく、国際機関によってクラ地峡運河の建設プロジェクトが推進されることはあり得ない話ではないでしょう。 クラ地峡運河が実現した場合、マラッカ海峡を通過するのに比べて1日~2日間の時間短縮になり、燃料の節約もできますので物流コストが下がる効果が期待できます。また、中国や日本といった東アジアの経済大国だけでなく、東南アジア、南アジアの新興国の50億人規模の経済圏の物流の促進、経済発展にとって大きなメリットが見込めます。 マラッカ海峡を通過するシンガポールを経由する航路は、往来する船舶が多く非常に過密なので、クラ地峡運河が出来ればマラッカ海峡の混雑緩和が出来ます。さらに、マラッカ海峡は座礁の恐れのある水深の浅い部分や海賊のリスクがあるので、クラ地峡運河が開通すればより安全に航行することが出来るようになります。