「オーディオマニア」だった作家の五味康祐さん 芥川賞受賞や「柳生武芸帳」が大好評 思い出とともに『いい音いい音楽』を拾い読み
時折、2階の書斎から五味さんが階段を駆け降りてくる。
「書けへん!」
そう言いながら頭をかきむしり、やおら、オーディオを聴き始める。応接室には何台ものステレオが並んでいた。
「ハナダクン、どれがいい?」
タンノイがいいとか、テレフンケンだとか、音楽に無知なぼくには一向、わからない。
適当に答えていると、すぐに見破られて、
「キミは音がわからんのォ」
そんなこんなを思い出しながら、『いい音いい音楽』を拾い読みしていたらあっという間に時間が過ぎてしまった。
<一時、やたらとブルックナーのレコードが発売され(中略)ちょっとしたブルックナーブームだった。なぜそうなのか? アントン・ブルックナーの交響曲は、たしかにいい音楽である。しかし、どうにも長過ぎる。酒でいえば、まことに芳醇であるが、量の多さが水増しされた感じに似ている。
それなのになぜ次々とレコードが発売されるのか。ブームでベートーヴェンやモーツァルトなどの名曲は相次いで発売され、レコード会社は<新分野を開拓せねば営業が成り立たず(中略)ついにブルックナーに手を出した。出さざるを得なかった、と私は思う>
後は今月号校了後の楽しみにとっておこう。