わが子の自己肯定感が下がり、勉強嫌いになるだけ…和田秀樹が「9割の子は行ってはいけない」と説く場所
■「努力が足りない」ではなく、「やり方を変えてみる」 たとえば、ゴルフでなかなか前にいいボールが飛ばないとしましょう。それなのに同じやり方で1000回素振りしたところで、よけい下手になるだけです。 繰り返しますが、「やればできる」というのは、新しいやり方を見つけてこそという条件付きなのです。 受験勉強でもそれは同じで、今のやり方で成果が出ないのなら、「努力が足りない」などと思ってその場でさらに頑張ろうとするのではなく、とりあえずその場から逃げて、やり方を変えてみることです。 通っている学習塾を変えるのもひとつの方法です。自分でも「やればできる」と信じて、同じところで頑張っているとしましょう。それでもなかなか成果があらわれないのはよくあることです。 そんなとき、本人や親は「自分は(この子は)、頭が悪いのだろうか」と思ってしまいがちです。 でも、そうではなく、その学習塾の教え方が合っていないのかもしれないし、やっている問題の質が合っていないのかもしれません。私の経験上でも、後者のほうが圧倒的です。 うまくいかないときはまず逃げてみる。自分の能力を疑う前に逃げてみる。「やればできる」は、そうすることで初めて実現するのです。 ■逃げてこそ「新しい道」が見えてくる Sという難関中学入学をめざす人を対象とした学習塾があります。言ってみれば“東大受験専門超優等塾”といったところですが、こういうところは、上から1割の人にはとてもいい塾なのですが、それ以外の人にとっては単なる教育虐待を受ける場所に過ぎません。 こういうところに通っても、たいていの人は自分のことを頭が悪いと思わされ、勉強嫌いになるだけです。 そういう人は、Sからさっさと逃げて、やり方を変えればいいと思うのですが、それがなかなかできないようです。 親も「ここにいれば開成から東大に入れる」と思い込んでいます。しかし、Sから実際にこのコースに進むことができるのは10人に1人程度でしょう。 そもそも、中学受験に向かない子が半分くらいいます。発達が遅い子に中学受験は絶対に向きません。それに、図形の問題などは、センスのない子にとっては、小学校5年生や6年生でできるというほうが無理なのです。もちろん、頭の良し悪し以前の問題です。 自分の子は中学受験のセンスがないと思ったら、受験勉強はせずに、小学校4年生で中1の英語や数学の教科書を終えればいいだけの話です。中1の英語や数学の教科書のほうが、Sの小学校4年生の問題よりも、ずっと易しいのです。 さらに5年生で中2の問題をやり、6年生で中3の問題をやれば、無敵の中学時代を送れるでしょう。 他の人と違うやり方で勝てばいいだけの話なのですが、それを「逃げ」だと思ってしまうのでしょうか、Sに執着し続ける親子が少なからずいるようです。 逃げられない裏にあるのは「かくあるべし思考」です。我が子を東大に合格させるにはSから開成に進まないといけないと思い込んでいるのです。 しかし、東大に合格できる道は一本しかないわけではありません。Sでなかなかうまくいかなかったら、とりあえずそこから逃げてみる。そうすることで初めて新しい道が見えてくるのです。 ---------- 和田 秀樹(わだ・ひでき) 精神科医 1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)など著書多数。 ----------
精神科医 和田 秀樹