サイコパスな上司、恋愛社会学、フェイクドキュメンタリー…10月の気になるノンフィクション
『人類の都: なぜ「理想都市」は闇に葬られたのか』 ジャン=バティスト・マレ(著)、田中裕子(翻訳)
著者は『トマト缶の黒い真実』でグローバル経済の実態を描いたジャーナリスト。(ちなみにこの方、アマゾンの配送センターに潜入取材をして内部事情を告発、フランスでベストセラーになったという過去もお持ちです) 20世紀初頭に、〈世界の首都〉構想が立てられたことがあったのだそうです。科学や芸術、スポーツなどの様々な叡智をひとつの年に集結させ、それを通じて世界平和を実現していくというのがその構想だったそうです。 熱狂的に支持された時代はあったものの、残念ながらその夢は潰えました。ユートピアをつくろうとしたこの思想、裏ではムッソリーニやヒトラーといった独裁者たちが強く関心をもっていたようです。 ユートピアがファシズムに利用されたのはなぜだったのでしょう。幻のユートピアをめぐる歴史ノンフィクション。
『人類の祖先に会いに行く: 15人のヒトが伝える進化の物語』 グイド・バルブイアーニ(著)、栗原俊秀(翻訳)
ルーシーやアイスマンなど、進化史に大きな足跡を残した人類の祖先15人。最新の技術によって、精巧な復元が可能になりました。 そうやって蘇ってきた在りし日の姿、彼がどんな生活をし、どんな人生を歩んできたのかをひとりひとり追体験するというリアルな1冊です。彼らの生活は私たちとどれくらい違い、どれくらい同じなのか。330年前から200年前のチャールズ・ダーウィンまでを振り返ります。
『恋愛社会学: 多様化する親密な関係に接近する』 高橋 幸(編集)、永田 夏来(編集)
先日観たある映画について、主人公の男女が危機対応を通じて恋愛関係にならないことに気づきました。これほどの吊り橋効果があるにもかかわらず、です。友人にも同じような事を考えている人がいて、「あぁこれこそが社会が変わってきているということだな」と感じたのです。 これだけでなく「恋愛」というのは、様々な形で関わることになるものですが、形は大きく変化してきています。結婚や性の話だけでない親密な関係を読み解く、始まったばかりの学問が「恋愛社会学」です。こちらはその入門書とのこと。
『フェイクドキュメンタリーの時代: テレビの愉快犯たち』 戸部田 誠(てれびのスキマ)(著)
最近、フェイクドキュメンタリーと名がつく本が増えてきました。嘘を前提にしながらも、事実であるかのように見せるジャンル。大ベストセラーになった『変な家』などもこの部類に入るのでしょうか。 しかし考えてみたら、テレビにおいて「やらせ」は御法度。だのになぜこんなジャンルが許されるのでしょうか。その端緒には03年の『放送禁止』というテレビ番組があるようです。 “分かりにくく、正しくない番組”を世に放つ愉快犯たちとの闘いに迫る(これは)ノンフィクション。「フェイクドキュメンタリー(的)テレビ番組年表」も気になります。
『このドキュメンタリーはフィクションです』 稲田 豊史(著)
あわせてこちらも。 ***** この他、来年の大河ドラマに向けて蔦屋重三郎の本や、没後10年となった高倉健の関連書なども多く出版されてきそうです。10月の書店店頭にご注目ください。 筆者:古幡 瑞穂(ふるはた・みずほ) 日販→出版社勤務。これまで、ながらくMDの仕事に携わっており、各種マーケットデータを利用した販売戦略の立案や売場作り提案を行ってきた。本を読むのと、「本が売れている」という話を聞くのが同じくらい好き。本屋大賞の立ち上げにも関わり、現在は本屋大賞実行委員会理事
古幡 瑞穂