<一冊一会>超高級老人ホーム、ADHD…社会を照らす5冊
肌寒くなってきて、やっと衣替えをし始めているころでしょうか。読書の秋に、じっくり読むことができる本をセレクトしました。 【画像】<一冊一会>超高級老人ホーム、ADHD…社会を照らす5冊
「新しい戦前」の時代に考える
『戦争という魔性 歴史が暗転するとき』保阪正康、日刊現代/講談社、1870円(税込) 先の戦争の始まりと終わりを検証すると共に、戦時下におけるメディアの役割、テロリズムの台頭などを振り返る。戦争の始め方も、終わり方も、自らに都合の良い解釈で進めていく軍部など政治的指導者の態度は、現在にも続く、日本人に巣食う宿痾のように思えてならない。「生等もとより生還を期せず」。学徒出陣で答辞を述べた東京帝国大学の学生だった江橋慎四郎氏に当時を振り返ったインタビューなど、これまで著者が行ってきたオーラルヒストリーも充実している。
記憶を掘り起こす
『忘れられた日本史の現場を歩く』八木澤高明、辰巳出版、1760円(税込) 「私が好んで歩いてきたのは、アイヌの人々の歴史であったり、東北の蝦夷、江戸時代の大飢饉の記憶、悪所と呼ばれた色街、明治時代に海を渡った日本人の娼婦からゆきさん、歴史的に弾圧されてきたキリシタンなど、どちらかというと、由緒正しきものではなく、悲劇や血に彩られた哀しい歴史であった」─。ノンフィクション作家であり、カメラマンの筆者はこう述べ、日本史からは忘れられた19カ所の現場を訪ねる。かつての日本人は良くも悪くもグローバルだったのだ。
令和の熊文学
『ともぐい』河﨑秋子、新潮社、1925円(税込) 熊文学と言えば、吉村昭の『羆嵐』(新潮文庫)が思い当たる。「妊婦ばかりを狙う羆」。思い出すたびに背筋が凍る恐ろしさを感じるが、本書もそれに劣らぬものがある。熊という圧倒的な自然を前にして人間は銃がなくてはひとたまりもない。いや、銃があっても危うい。日露戦争前という時代背景の中で、だからこそ、そうした自然を前にして人間は、もっと謙虚であるべきだということを改めて思い知らされる。と、同時に恐ろしさは、自然だけではなく、人間にも宿っている。それを「ともぐい」という形で表現したのが本書だ。人間もまた自然の一部なのである。