名古屋グランパス 光持稜―アカデミーはサッカーと人間性の成長の場―
アカデミーでの指導の難しさ
ーー光持さんがアカデミーにいたのは約20年前ということですが、今のアカデミーを取り巻く状況の中で、当時と比較して一番変化したものはどのようなことだと思われますか。 光持「一番の違いは、クラブのビジョンが明確なこと、そしてアカデミー生と外部の方々との接点が圧倒的に増えたことです。私がアカデミーにいたころはコーチ自身の経験や価値観をもとに指導してくださっていたと思っていますが、今はクラブのビジョンやフィロソフィーがあり、目指すところが明らかになっています。また、アカデミー生がパートナー企業を訪問したり、さまざまな活動への参加を通じて、社会を知るきっかけがたくさんあります。こうしたことを通じて、サッカー選手としてだけではなく、一人の社会人として人間性も構築できる環境になっていることが、大きな違いですね。」 ーーおそらく、光持さんがアカデミーにいらしたころと、今のアカデミーとの違いの一つに、SNSの存在があるかと思います。今の選手は、YoutubeをはじめとするSNSで、トレーニング方法等についてさまざまな情報を取り入れることができます。こうした傾向について、光持さんはどのようなご意見ですか。 光持「確かに今のアカデミー生はSNSによって、多くの情報をインプットする機会に恵まれていますし、そのこと自体は良いことだと私は思います。ただ、SNSを通じて得た情報が自分にとって良いのか悪いのかということを判断する能力が、若い選手にも必要になっています。 また、SNSに関して言うと、いまではJリーグ主体、またクラブ独自でのSNS関連の学びの場というのもあります。そうした意味では、SNSとの付き合い方も学べる場がグランパスアカデミーということになりますね。」 ーーカテゴリー別に分かれているとはいえ、年齢の面からみると、10歳から18歳までの選手がアカデミーにいることになります。その年代は、一気に背が伸びたり体自体が大きくなったりと、体が急速に成長する時期にあたります。そうした身体的コンディションを考慮して選手を育てるのは、プロとなったトップチームの選手をコーチするのとはまた別の難しさがあるように思うのですが。 光持「その通りです。グランパスアカデミーには年代別にコーチがいて、それぞれのコーチが日々の練習内容を決めます。また、栄養士もクラブにいるので、食事の面でも体に必要なものをとることができるように、アカデミー生をバックアップすることもできます。加えて、クラブにはさまざまなフィジカルのデータもあるので、トレーニングでどこの部分をどこまで伸ばせば良いのか、一定の方向性をアカデミー生に示すことができます。 とはいえ、特にフィジカルの成長というのは個人差が大きいものです。特にアカデミー生の世代というのは体が大きくなる時期にあたるので、トレーニングも体の成長に合わせたものにしないと、トレーニング過多が原因でけがをして、数か月プレーできなくなったりすることになります。しかし、100%個人の状態に合わせた形で指導できるわけではないので、そのあたりが難しいところですね。 また、特にU-18(18歳以下)世代は、トップチームでのプレーを現実的に考える世代になります。でも、実際にユースの選手がトップチームとプレーすると、データではわからないフィジカルの重要性を感じる事が多いんです。つまりトップチームの選手のフィジカルの強さに、ユースの選手が圧倒されてしまうんですね。そのため、グランパスアカデミーでは、U-18チームの選手がトップチームのトレーニングや練習試合に参加する機会を多く設けることで、トップチームで活躍するために自分には何が必要なのか、ということに気が付いてもらえるようにしています。」