NY地下鉄新型電車、日本では当たり前の「初採用」とは? 川崎重工製、納入後にはシェアで圧倒的首位に「鉄道なにコレ!?」【第48回】
ところが、川崎重工関係者は「新型コロナウイルス禍によるサプライチェーン(供給網)の混乱で部品調達が難航し、労働者の大量退職による人手不足も直撃し、R211は大幅な納入遅れが起きている」と打ち明ける。 最初の編成は2020年に納入予定だったが、2022年7月にずれ込んだ。基本契約の535両の納入完了予定は2025年1月と、予定より1年5カ月遅れる見通しだ。 ▽駆け込み乗車をいさめる仕掛けも MTAが首を長くして待っていたR211系は今年3月10日に営業運転を始めた。最初に導入された路線は、ジャズの名曲「A列車で行こう」のモチーフとなったことで知られる「A系統」だ。マンハッタン北部とクイーンズ区の約50キロを結ぶ路線は途中の一部の駅を次々と通過し、まるでジャズの音色を奏でているような“ノリの良さ”を味わえる。 筆者もニューヨークを訪れてR211に乗り込んだところ、発光ダイオード(LED)で照らした車内は「眠らない街」にふさわしい明るい雰囲気で、壁面の様々な場所に備えた液晶画面で電車の行き先や停車駅、地元情報などを知らせている。また、旧型車両に比べて格段にスムーズな加速も持ち味だ。
利用者が乗り降りする時間を短くできるように客室の扉が開いた時の幅が147センチと、従来車両より20センチ長くなった。扉が開いた際には脇にあるライトが緑色に光り、乗降できることを知らせる。一方、扉が閉まる時はライトが赤色に変わって駆け込み乗車をしないようにいさめる。 ニューヨークなどではアジア系への人種差別的な攻撃が問題化したが、R211は天井に防犯カメラを設置して車内を監視している。バリアフリー化で車いす利用者用のスペースを設けており、車いすの利用がない場合は使える折りたたみいすを備えている。 惜しいのは座席が野球場のような繊維強化プラスチック(FRP)製で、堅い座り心地である点だ。車両メーカー関係者は「表面がビニールや生地の座席だと、刃物で損傷するようなマナーの悪い利用者もいるためだ」と説明していた。 ▽ギャングの道?「ぎょっ」とする語感の新構造とは… R211の2023年10~12月期に営業運転を始める予定の編成は、ニューヨーク地下鉄としては初めて「オープンギャングウェイ」と呼ばれる構造を採用する。マフィア組織が暗躍してきたニューヨークだけに、反社会的勢力が駆け抜けていきそうな「ぎょっ」とする語感と受け止められるかもしれない。