【ラグビー】俊足の格闘家。東洋大・坂本琥珀は「小ささを利用して持ち味を出したい」
蹴りが好きだった。投げるのも得意だった。 東洋大ラグビー部2年の坂本琥珀は、かつて空道をしていた。防具をつけた総合格闘技のことだ。 ルール上、打撃、締め技、関節技をはじめあらゆる攻撃ができる。小学1年から地元である宮城の仙台ラグビースクールへ通う傍ら、道場でも実績を積んだ。 「小学校の時に全国大会2連覇。中学で出た世界大会の予選は準優勝だったのですけど。ここで足腰は鍛えられました」 おかげで身長168センチ、体重72キロと小柄ながら、身体のぶつけ合いを苦にしない。最も得意だったのは立ち技のキックと投げ技だが、10月6日の流経大戦では地上戦で映えた。 後半1分頃。この午後FBで先発のファイターは、ハーフ線付近左で倒れた走者の持つ球へ絡む。ジャッカル。向こうの援護役にはがされず、ペナルティーキックをもぎ取る。 次のアタックフェーズでは、フィジカルバトルと異なる持ち味を活かした。 スピードだ。敵陣22メートル線あたりの中央で深い角度のパスへ駆け込み、右斜め前方のスペースを突っ切る。追いすがるタックラーを置き去りにする。トライ。3分までに、7点あったビハインドを2点に詰めた。 「チームを勢いづけられたのはよかったです」 加盟する関東大学リーグ戦1部の3試合目にあって、この日の東洋大は堅守とセットプレーを貫いた。坂本も好突破を連発した。前年度の順位で3つ上回る2位の流経大を27-24で下した。これでシーズン2勝目。同カード初白星でもある。 会場は茨城・流経大龍ケ崎フィールド。勝者はスタンドへの挨拶を済ませると、芝から降り、周りの陸上トラックのあたりで朗らかにハイタッチをかわした。円陣を組めば、勝利を祝うように叫んだ。 多国籍の選手らの醸す伸びやかさと、福永昇三監督の打ち出す「凡事徹底」という方針を絶妙に共存させるのが東洋大らしさだ。 海外出身の仲間たちが談笑する隣で、坂本は言う。 「いまは(目の前で)留学生同士が固まっているように見えるかもしれないですけど、寮では日本人ともご飯を食べて、コミュニケーションをかわします。なかにはハーフの選手もいて、コミュニケーションが難しいところは通訳もしてくれるんです」 ラグビーに専念したのは高校からだ。スクールでグラウンドへ行かせてもらっていた仙台育英高へ入り、全国大会でも走りまくった。やがて関東、関西の複数の大学から誘われるようになった。 東洋大の活動を見学しに出かけたのは、3年生の春のことだった。クラブの醸すホスピタリティ精神に惹かれ、自分もこの輪に入りたいと思った。 「その日は練習試合をしていました。ちょうど猛暑日でしたが、東洋大の選手たちはすぐにテントと椅子を用意してくれて『使ってください』と。そして(ゲームに)出ている人、出ていない人に関係なく声を出していて、アドバイスもし合っていた。人間力の高い人たちばかりだな…と」 進路を心に決めてその年度の秋を過ごしていたら、29季ぶりに1部に昇格していた東洋大が前年度王者の東海大を破ったと知った。誇らしかった。 チームに抱く前向きな印象は、入学後も変わらないようだ。いまは2季ぶりの大学選手権出場を目指しながら、自らの将来も明るくしたいという。 男子セブンズシニアアカデミーの活動に参加する傍ら、15人制でも国内リーグワン参戦を狙う。 「身体のサイズは昔から小さかったし、変わらないことです。逆にこの小ささを利用して、どんどん持ち味を出していきたいです。東洋大を応援してくれる方に恩返しをしながら、やるからにはリーグワンを目指します」 19日には、群馬・森エンジニアリング桐生スタジアムで東海大に挑む。 (文:向 風見也)