今や軽自動車の主流、スーパーハイトワゴンを開拓したダイハツ「タント」が誕生した背景とは?【歴史に残るクルマと技術068】
2003年にダイハツからデビューした「タント」は、当時人気だったハイトワゴンよりさらに100mm程度車高を上げた軽スーパーハイトワゴンと呼ばれる新たなジャンルを開拓。圧倒的な室内空間を実現して大ヒット、スーパーハイトワゴンの軽は急速に市場で拡がり、今や軽乗用車の主役となっている。 TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)/PHOTO:三栄・軽自動車のすべて スズキのワゴンRが開拓したハイトワゴン ダイハツ・タントの詳しい記事を見る 軽ハイトワゴンのパイオニアであるスズキ「ワゴンR」は、1993年に登場。車高をセダン「アルト」より255mm高い1680mmに上げ、さらにホイールベースをクラス最大の2335mmに延長し、従来の軽自動車になかった圧倒的なサイズ感、室内スペースを実現した。 ワゴンRのスタイリングは、ボクシーな2ボックスで右側1ドア、左側2ドアの個性的な左右非対称の3ドアを装備。サイドシルの高さを低くしてフロアとの段差をなくし、さらにシートの背もたれの角度を立てて自然な姿勢での乗降を可能にしたことも大きな魅力だった。パワートレインは、最高出力55pを発揮する660cc直3 SOHCエンジンと5速MTおよび3速ATの組み合わせ。1995年には64psのインタークーラー付ターボモデルも追加され、商品力強化が図られた。 爆発的な人気を獲得したワゴンRは、発売から3年2ヶ月の1996年に累計販売台数50万台、1998年に登場した2代目も好調をキープして、2001年には累計150万台を達成。なんと2008年までカローラやフィットを抑えて販売台数のトップの座に君臨したのだ。 ダイハツは、ワゴンRに対抗してムーヴを投入 ワゴンRの大成功を受けて、他社も続々とハイトワゴンを市場に投入。最大のライバルであるダイハツは、1995年に「ムーヴ」を発売し、ハイトワゴンブームが起こった。 ムーヴは、人気セダン「ミラ」をベースに、スタイルはワゴンRに類似しながらも、ワゴンRとの差別化を図った。大きな違いは、使い勝手の良い左右対称5ドア(ワゴンRは、後席ドアは助手席後部のみ)、テールゲートが横開き、後席がスライド機構付きであること、車重がワゴンRよりも約30kg軽量であることだった。 エンジンは、新開発の最高出力58psの660cc直3 DOHCをメインに、直4 DOHCには当初ワゴンRにはなかったターボモデルをラインナップ。トランスミッションは、5速MTおよび3速ATで、ターボモデルには4速ATが用意された。 ムーヴも高い人気を獲得してワゴンRのライバルとなり、このライバル関係は2024年今現在も続いている。 ハイトワゴンとスーパーハイトワゴンが誕生した軽の規格変更 軽自動車は、日本初の量産軽自動車スズキ「スズライト」が1955年に登場して以来、市場変化や要望に対応した規格変更に応じて進化を続けた。 1990年の規格変更では、安全性向上のため車重が重くなったことからエンジン排気量を550ccから660ccに引き上げ、車体の全長も100mm延長され、全長×全幅×全高が3300×1400×2000mmに拡大した。エンジン排気量が660ccに拡大してパワーアップした結果、多少車高を高くして車重が増えても動力性能の低下が避けられることが、ハイトワゴンブームが起こった一因と言える。 さらに1998年には、衝突安性の向上を図る目的で、エンジン排気量はそのままで、ボディサイズは全長が100mm、全幅が80mmに拡大された3400×1480×2000mmへ規格が変更された。 このように規格変更で軽自動車が大きくなることで、コンパクトカーのサイズに近づき、コンパクトカー並みの室内スペースが確保され、税制や燃費を含めた維持費で有利なハイトワゴンやスーパーハイトワゴンの人気を加速することになったのだ。 元祖スーパーハイトワゴンのタント登場 ダイハツは、ムーヴに続いて独自のパッケージングでさらに車高を高め、クラス最大級の室内スペースを実現したスーパーハイトワゴンのタントを2003年に発売した。 ボディサイズは、全高がムーヴより95mm高い、全長×全幅×全高が3395×1475×1725mm、またホイールベースは軽最大の2440mmにしてフラットで圧倒的な室内スペースを達成。ボディ骨格には、進化版衝突安全ボディ“TAF”を採用し、左右分轄でロングスライドできるリクライニングの格納機構付きリアシート、大きな開口部のリアゲートなどで利便性が高められた。 スタイリングは、エンジンフードを極端に短縮した角を丸めたボクシーなフォルムで、直角に近いAピラーと大きなウインドウガラスが特徴だった。エンジンは、最高出力58psの660cc直3 DOHCと64psのターボエンジン。組み合わされたトランスミッションは2WD(FF)が4速AT、4WDが3速ATまたは4速ATだった。 タントは、圧倒的に広い室内スペースと使いやすさが子育てユーザーの支持を集め、発売1ヶ月で1万台を超える受注を記録し、その後も月販台数で8000台をキープする大ヒットモデルとなった。 2008年には、スズキがスーパーハイトワゴンの「パレット」(その後、「スペーシア」にバトンタッチ)で追走、現在はこの2台にホンダの「N-BOX」を加えた、スーパーハイトワゴンの三つ巴の熾烈な販売競争を続けている。 タントが誕生した2003年は、どんな年 2003年には、スズキ「タント」以外にもスズキ「ツイン」、トヨタ「アベンシス」、ホンダ「MDX」などが誕生した。 ツインは、軽自動車よりも一回り小さい2人乗りの超小型自動車で軽初のハイブリッドを設定していることでも注目された。アベンシスは、英国で生産され欧州で販売されていた中型セダン。MDXはカナダで生産され北米で販売されていた3列シートのSUV。いずれも日本に逆輸入して販売したモデルだが日本では苦戦を強いられた。 自動車以外では、オレオレ詐欺(振り込め詐欺)が横行、小惑星探査機「はやぶさ」の打ち上げ、地上デジタル放送が開始、宮崎駿監督「千と千尋の神隠し」が第75回アカデミー賞長編アニメ映画賞を受賞した。 また、ガソリン117円/L、ビール大瓶2 04円、コーヒー一杯438円、ラーメン552円、カレー666円、アンパン120円の時代だった。 ・・・・・・・ ハイトワゴンより、さらに車高を上げて圧倒的な室内スペースを達成したスーパーハイトワゴンという新たな軽のジャンルを開拓したダイハツ「タント」。2024年現在の日本市場で軽自動車人気を決定的にした、日本の歴史に残るクルマであることに間違いない。
竹村 純