「命だけは助かった」でも…残された荷物はどうなった? 羽田の航空機炎上事故、避難した乗客が語る「その後」
羽田空港滑走路で起きた日本航空(JAL)の衝突事故。埼玉県に住む30代の鈴木浩一さん=仮名=も乗客の1人だった。客室乗務員の指示に従い、脱出用シューターをすべり降りた後、安堵の思いがこみ上げた。「命が助かって良かった」。一方で、身の安全が確保されたことを自覚した時、ぼんやりと思った。「荷物はどうなるんだろう」 【動画】わずか約10秒の間に…子どもとみられる人を含む9人が滑り降り
1月2日の事故では、炎上する機体のショッキングな映像とともに、乗客乗員379人が全員無事だったことで世界中に驚きを与えた。ただ、着の身着のままで空港に留め置かれた乗客は、その後どうしたのだろう。貨物室に残された荷物約200個や、機内に持ち込んで収納棚にしまった手荷物の中には、乗客にとって大切なものもあったはず。荷物の返還や補償はどう進むのか。北海道旅行の帰りに巻き込まれた鈴木さんに、未曽有の航空事故の一部始終と「その後」を語ってもらった。(共同通信=助川尭史) ▽炎上する機体、財布とスマホだけを手に脱出 鈴木さんは昨年末から3泊4日の日程で札幌の友人を訪れ、埼玉の自宅に戻るため、2日の便に搭乗した。 北海道旅行は、新型コロナウイルス禍以降初めて。年始で値が張る時期だったが、JALを予約した。理由は、以前に格安航空会社(LCC)を利用した際、積雪で欠航したのに振替便がなかったため。「万が一」を考え、便数が多い航空会社を選んだ。
羽田空港に着いた午後5時47分、着陸の衝撃と同時に「ドン」という別の大きな衝撃があった。窓を見ると、エンジン部分からオレンジ色の火が出ていた。衝撃が収まった後、機内は煙が充満し、辺り一面に焦げ臭いにおいが立ちこめた。 「衝撃があってから非常ドアが開くまで5分ぐらいだったと思うけど、すごく長く感じました。収納棚から荷物を取りだそうとした人もいましたが、客室乗務員さんに『手荷物を取り出さないでください』と言われ、みんな指示に素直に従っていました。避難は比較的スムーズだったと思います」 鈴木さんが身につけていたのは財布とスマホだけ。脱出用シューターをすべり降りた直後、右のエンジンから「ウィーン」とうなるような音が上がった。 「離れて!」 客室乗務員の声を頼りに走って機体から離れた。近くにいた乗客たちと、燃え盛る機体を遠巻きに見つめた時、安堵の思いと同時に「荷物はどうなるんだろう」と思った。