ホンダ・日産の統合は、日本の製造業「終わりの始まり」か…いまや「最後の望み」が「家電・スマホ」の”二の舞”に
ドイツの自動車産業も凋落
こうした問題に直面するのは、日本だけでない。ドイツの自動車企業も同じ問題に直面している。 そして、ドイツの自動車会社の時価総額も大幅に減少している。メルセデス・ベンツの時価総額は602.4億ドルで、世界第324位だ。BMWの時価総額は504.1億ドルで、世界第389位。VWの株価は、2021年4月から急激に下落した。現時点の時価総額は465.2億ドルで、世界第418位だ。 アメリカの伝統的自動車メーカーの没落ぶりも同様だ。GMの時価総額は550.0億ドルで、世界第354位。フォードの時価総額は385.1億ドルで、世界第529位。 これらと比べると、テスラ(時価総額は1兆4120億ドルで、世界第8位)がいかに特別な存在かがよく分かる。 なお、これらの中間に、トヨタ(時価総額が2278億ドルで、世界第45位)と中国の自動車メーカーBYD(時価総額が1088.9億ドルで、世界第154位)とシャオミ(時価総額が959.6億ドルで、世界第167位)がある。 つまり、自動車の生産という事業は、これまでのように日本やドイツが得意だったものから大きく変わってきているのだ。 日産・ホンダの統合協議が報道された18日の東京株式市場では、日産株がストップ高となった半面で、ホンダ株は年初来の最安値を更新した。日産の救済がホンダの負担になると解釈されたのだろう。 日本の製造業が根底から改革されなければならない必要性が、ついに自動車産業にまで及んだと考えるべきではないだろうか?
ホンファイがなぜ買収提案?
日産に対しては、EMS(電子機器の受託製造サービス)の世界最大手、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が出資の提案を行っていたという報道がある。それを阻止するために、ホンダとの提携を急いだというのだ(日本経済新聞、12月9日)。 では、ホンファイは、なぜ日産を買収しようとしたのか? 第一に、日産の持つ高い技術力を評価した。しかし、EVへの転換にあたっては、純粋な技術力だけではなく、すでに述べたような社内構造の大改革が必要となる。こうしたリストラは、日本型の組織人にはできないと考えたのだろう。 そして、自分が買収すればできると踏んだのだろう。 実は、電器産業が、同じような事態を経験した。IT革命によって、世界的な水平分業化が進み、ビジネスモデルの大改革が求められたのだ。 それに失敗して経営危機に陥っていたシャープは、2016年4月に、ホンファイに買収された。 電器産業が没落した後、自動車は日本の製造業の最後の望みだった。それがいま、ついに「終わりの始まり」を迎えようとしているのではあるまいか?
野口 悠紀雄(一橋大学名誉教授)