ユダヤ人に命のビザを出した日本人外交官。その記念館でイスラエル人は何を思うのか? 「負の歴史」に向き合う場所で、団体客を乗せたバスを待ち、聞いたこと
▽館長が、戦争を体験していない世代に願うこと 記念館パネル展示の最終地点には、人道の木(メッセージツリー)が設置されている。記念館に募金するともらえるステッカーに、メッセージを記入し、壁面の人道の木に来場者自身で貼り付ける。「人道の木」には杉原千畝を賞賛するものや、ウクライナ、ガザの平和を願うメッセージが多く寄せられていた。日本人からは「こういう歴史があるのに、未だ戦争が起きている状況がとても悲しい」と館長に話し、記念館を後にする人もいるという。 総務省によると2023年10月1日現在、戦後生まれの人口は1億932万人で、全体の87・9%を占める。「戦争を直接体験していない世代」が9割に迫り、先の大戦記憶の忘却への懸念は深まるばかりだ。そんな状況下で続く軍事衝突を危惧する山田館長は「若い人たちにもっときてほしい。このパネル展示を通して自分なりに平和や人権について考えてもらいたい」と話した。 ▽時代と国境を超える戦争の「痛み」
杉原千畝や記念館に関する質問にはほとんどの人が足を止め、エルサレムのホロコースト記念館「ヤド・バシェム」の話や自分の先祖について織り交ぜながら真剣な表情で答えた一方、イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突の話題に触れると「政治の話をするの!?」と渋い顔で反応する人も少なくなかった。「あの人のほうが英語上手だし、話してくれると思うわ」と遠慮気味。「話したくないのか、話せないのか、話さないのか」は分からない。ただ、「ホロコーストで多くのユダヤ人の子どもが命を落としたように、ガザでも今、何の罪もない子どもたちが毎日亡くなっている。この状況をどう思うか?」との問いに対しては「本当にかわいそう。悲しい」との言葉で一致していた。少しほっとした。 死と隣り合わせの生活を余儀なくされる一般市民が後を絶たないという状況は、大戦時も「現在」も変わらない。無差別に無数の人々の人生を翻弄する戦争は「現在」も続き、終わりが見えない。戦禍における殺りくが「過去」として語られる日はいつ来るのだろう。2025年には戦後80年を迎える今、杉原千畝の功績を振り返りながら、各地に起こる戦争の一刻も早い終結を願う。