ユダヤ人に命のビザを出した日本人外交官。その記念館でイスラエル人は何を思うのか? 「負の歴史」に向き合う場所で、団体客を乗せたバスを待ち、聞いたこと
山田利幸館長(60)によると、団体客の中にはホロコースト生存者の孫たちも多いという。2024年5月21日は約30人のイスラエル人団体ツアー客が来館した。入館すると研修室で杉原千畝に関する約17分のビデオを全員で視聴。入室後に賑やかだった雰囲気は一転、ビデオが始まると水を打ったように団体客は静まり、スクリーンに目を向けた。視聴後は館内展示品を自由に見て回る。1階の展示品紹介は日本語・英語・ヘブライ語で記載されている。 記念館訪問はツアーの中に組み入れられているという。山田館長は「ツアーリーダーがこの記念館に興味ある人だと、皆さんをここに連れてきてくれる」と話す。そういうわけで、自由時間にはパネル前で足を止め、じっくり読む人もいれば、足早に館内を一周し、出口に向かう人もいた。 ▽「今日ここに来ているみんなが、戦争が終わってほしいと願っている」 この日、団体ツアーで記念館を訪れたイスラエル人の会社員シャロン・テハルレブさん(48)は「ここに来るまで彼のことは知らなかったが、彼はユダヤ人の歴史の大切な一部だと思う。彼のような人がこの世界にもっと増えてほしい」と流暢な英語で語る。
「まだ取材相手を探してる?」と話しかけてきた会社員エイナット・カノールさん(52)は、ホロコースト生存者の両祖父母をもち、幼少期から話を聞いてきたという。「杉原さんの事は知らなかった、感動した。異宗教というだけで、人を殺す理由にはならない。思いやりが大事」と穏やかな口調と笑顔で話した。 最後の一人が記念館から出てくると、団体客は全員で人道の丘公園敷地内にあるビザモニュメントに向かった。他の団体客がビザモニュメントに設置された「平和の鐘」を打ち、鐘の音が辺りに響き渡る中、終わりの見えないイスラエル軍とハマスの武力衝突についてテハルレブさんはこう語った。「今日この記念館に来ているみんなが、早くこの戦争が終わってほしいと願っている。イスラエル兵士も大勢亡くなっているし、お互い悲惨な状況に陥っている。私たちはただ平和な暮らしがほしいだけ」。カノールさんは「人が人を殺すなんて私には理解できない。私たちは獣じゃないんだから。早く戦争が終わってほしい」と話し、団体客が待つ出発直前のバスに戻った。