クリスマスに観たい!バレエダンサー・柄本 弾さんが語る、バレエ『くるみ割り人形』の魅力
──ズバリ、『くるみ割り人形』の見どころ、魅力を教えてください。 「まずは、バレエを観たことがない方、知らない方でもストーリーがわかりやすく、音楽もどこかで一度は耳にしたことがあるような名曲ばかりなので、多くの方に楽しんでいただけるところが魅力だと思います。踊りに関していえば、第1幕第5場の《雪片のワルツ》で踊られるコール・ド・バレエ(群舞)。東京バレエ団のコール・ド・バレエは、世界の有名な方々が認めてくださっているところでもありますし、海外の劇場で踊っても高く評価されてきたので、見どころのひとつですね。 また、現在バレエ団の若手がものすごく伸びてきていて、今回の『くるみ割り人形』に関しては、5日間5公演で5キャストという信じられない状況になっているので(笑)、そこも見どころだと思います」 ──以前のワイノーネン版と友佳理さん版では、どのあたりが違うのでしょうか。 「とにかく細かい仕掛けがたくさんあって、何度観ても新しい発見があるところですね。例えば、第2幕のディヴェルティスマン(ストーリーとは関係ない余興の踊り)では、ダンサーたちが高いところから顔を覗かせていたはずなのに、瞬間移動したかのように舞台に出てきて踊るというトリック的な演出があったり。あと、何より特徴的なのは、ドラマ性が強いところです。 マーシャの心の成長がより丁寧に描かれていますし、その成長を導いていく役割をドロッセルマイヤーが担っているので彼の重要度も高く、キャラクターが立っています。そのあたりにも注目していただくと、より楽しく観ていただけるのではないかと思います」
もうひとつの『くるみ割り人形』
──来年2月には7年ぶりに「ベジャールの『くるみ割り人形』」が上演されます。定番の『くるみ割り人形』とはまったく異なる作品ですよね。 「まったく違う作品だと思います。主人公の少女も王子も登場しないので、(モーリス・)ベジャールさんの幼少期の話を『くるみ割り人形』の曲に乗せて作られた作品、という感じで観ていただくのがよいかもしれません。この作品の魅力は、ベジャールさんの少年時代を投影したビムという主人公の少年が成長していく物語で、とてもドラマティックで感動的なんです。ドロッセルマイヤー的ポジションのM…がいたり、ディヴェルティスマンで各国の踊りがあったりと、『くるみ割り人形』に通じる部分もあるので、『くるみ割り人形』を観たことがある人はなじみやすいと思いますが、バレエを観たことがない人でもとても楽しめる作品です」 ──今回、主要な役どころのひとつ、「M…」を初めて踊られます。配役を伝えられたときのお気持ちはいかがでしたか。 「初めて友佳理さんに『無理です!』と言ってしまいました(笑)。この作品のモーリス・ベジャール・バレエ団のDVDを何十、何百回と見ているほど好きなので、自分には務まらないだろうと。僕だけでなく、ほかのダンサーもそうだと思うんですけど、お気に入りの演目に関して、自分の中で『この役にはこの人がいちばん!』みたいなドリームキャストがあるんです。 本作においては、生の舞台を多く観たわけではないのですが、僕の中で圧倒的に「M…」はジル・ロマンさん、フェリックスは小林十市さんなんです。 M…=ジルさんというのがすでにできあがっているので、偉大なレジェンドダンサーと比較するわけではないのですが、自分にはムリだな、と。でも、先日ジルさんが来日していたときにお話しさせていただく機会があり、このことを伝えたら、『僕と同じようにする必要はないし、君には君のM…があるはず。僕が君ならではのM...を見つけられるまで指導するから大丈夫。安心してほしい』と言ってくださって。すごく心強いですし、嬉しかったですね。直接指導を受けられるので、どこまでできるかわかりませんが、全力で挑みたいです」 ──最後に家庭画報ドットコムの読者のみなさんにひと言お願いします! 「僕のことを知らない方やバレエのことを知らない方々が、今回のこのインタビューを通じて、少しでも興味を持ってくださったなら、気楽な気持ちで劇場へいらしてください。 バレエに詳しくなくても、一度も観たことがなくても、例えば『音楽がいいな』とか、『舞台美術が美しいな』とか、『脚が高く上がっている!』とか、それこそ男性のダンサーがかっこいい、女性ダンサーがきれい……など、感動するポイントはなんでもいいと思います。特に『くるみ割り人形』は観やすい演目なので、おすすめです。僕が出演する日ではなくてもいいので(笑)、劇場に足を運んでいただけたらそれだけで嬉しいです。ぜひ劇場でお待ちしています!」