IS支配はまだ終わらない? モスルに残る3年間の傷痕
破壊された教会
街にある教会もことごとく破壊され、焼き払われた。アフマドという若者に街の中で出会い、案内してもらった。大通りに面する教会の尖塔は爆破されたのか無残にもへし折れ、大きな鐘が地面に転がっていた。内部も火が放たれたらしく、天井まで煤(すす)で真っ黒だった。キリスト彫像の破片が地面に転がり、もぬけの殻になった教会は在りし日の姿の欠片もない。 アフマドが瓦礫の中からアラビア語で書かれた聖書を拾い上げパラパラとページをめくる。「神がお前を守ってくれる。一つお前も持っていけ」と聖書を手渡された。 キリスト教もイスラム教も、信仰するそもそもの神は一緒なはずだ。ISは教会を破壊し、ついには自分たちの手でモスクまで破壊した。いったい人間にとって宗教とは何なのだろう。神とはどんな存在なのだろう。さまざま国で、異なる厳しい環境に暮らす人々を見てきた。そうした環境に置かれた人々ほど、心のより所や、無情で不公平な世の中を受け入れる為の理由が必要なのだろう。そういう国ほど、信仰が厚かったように思う。 「毎週日曜日には500人くらいがここに集まって礼拝をしていたんだ」とアフマド。破壊された聖壇を前に、胸の前で十字を切った。
街に戻ってきた住人
アフマドが、自宅に私を招待してくれた。母親が飲み物と水々しいスイカを持ってきてくれた。一家はISが街に迫ってきた時に街から避難したが、つい10日ほど前に戻ってきたという。 祖父の代から引き継ぐ農地で放牧をして生計を立てていた彼らは、これからまた生活を立て直すと言った。アフマドは家業を手伝うかたわら、今は街を防衛するキリスト教民兵の部隊に加わっている。ペシュメルガの姿は見えない。この街の住民は自分たちで街を守ることを決意した。「ISが来る前は本当に平和な町だったんだ。キリスト教徒もイスラム教徒も仲良く暮らしていたよ。今は誰もいなくなってしまった。でも、一日に数家族ずつだけど、街に戻ってきているんだ」。そう話す一家の顔には笑顔が浮かんでいた。