安田純平さんを拘束? イスラム過激派「旧ヌスラ戦線」とは
アルカイダの資金難で増加する外国人拉致事件
アルカイダの資金難の影響を受け、「ヌスラ戦線」による身代金目的の外国人拉致事件も増加傾向にあるようです。最近の例を挙げると以下の通りです。 ・2013年11月に「ヌスラ戦線」の戦士に拉致されたギリシャ正教会の尼僧13人を含む16人全員が翌年2014年3月に解放されました。テロリスト側の要求は、シリア政府に監禁されていた女囚人150人を釈放させることで、身代金は支払われなかったといわれています。 ・2014年8月、「ヌスラ戦線」が2年間にわたって拘束していた米国人ジャーナリストのピーター・テオ・カーティス氏が解放されました。カーティス氏はテロ組織からひどい扱いは受けていないとのことでした。 ・2014年9月、シリアとイスラエルの国境地帯に派遣されていたフィジー人の国連平和維持部隊兵士45人が、「ヌスラ戦線」に拉致されてから2週間後に全員解放されました。「ヌスラ戦線」は「国連平和維持軍はアサド政権を支援しており、我々の敵だ」とコメントしています。 上記に挙げた拉致事件では、いずれも人質が殺傷された事実はありませんでした。これは、アルカイダの優等生としてアルカイダ中枢の薫陶を受けた「ヌスラ戦線」の矜持かもしれません。ただし、米国人ジャーナリストとフィジー人国連平和維持部隊兵士の解放については、交渉に当たったカタールの仲介人が身代金を支払った事実を認めています。 「ヌスラ戦線」は、2014年1月からそれまでは身内だったISILとの戦闘に突入し、相当数の死傷者を出しました。さらに、2015年9月末からロシアがアサド政権支援のために反政府組織に対する空爆を開始したために、「ヌスラ戦線」ほかの組織は急加速で弱体化していると考えられます。しかも、アサド政権軍は、イランのシーア派諸勢力やヒズボラからも援軍を受け入れています。したがって、国際社会がシリアの和平を進める中で、軍事的に優位に立ち発言力を増したアサド政権を倒すことは、現時点では極めて困難と考えられます。 《参考文献》 ・公安調査庁「国際テロリズム要覧2018」 ・New York Times(2014.7.29)“Paying Ransoms, Europe Bankrolls QaedaTerror” ・COUNTER TERRORISM PROJECT “Nusra Front (Jabhat Fateh al-Sham)” ------------------------------------- ■安部川元伸(あべかわ・もとのぶ) 神奈川県出身。1975年上智大学卒業後、76年に公安調査庁に入庁。本庁勤務時代は、主に国際渉外業務と国際テロを担当し、9.11米国同時多発テロ、北海道洞爺湖サミットの情報収集・分析業務で陣頭指揮を執った。07年から国際調査企画官、公安調査管理官、調査第二部第二課長、東北公安調査局長を歴任し、13年3月定年退職。16年から日本大学教授。著書「国際テロリズム101問」(立花書房)、同改訂、同第二版、「国際テロリズムハンドブック」(立花書房)、「国際テロリズム その戦術と実態から抑止まで」(原書房)