広島、ソフトからライバル球団へ異例のコーチ流出はどんな影響を与えるのか
待ちに待ったプロ野球が明日30日にセ、パ同時に開幕する。 大谷翔平がアメリカに去ろうが、清宮幸太郎が開幕を2軍で迎えようが、話題に事欠かないが、注目のひとつは、昨年オフに同一リーグ内で起きたコーチ、スタッフの流出、移籍が、どう影響するかだ。セ・リーグから見ると連覇を果たした広島からは、最強カープ打線を支えた石井琢朗打撃コーチと、その機動力を鍛えた河田雄祐・外野守備走塁コーチの2人がヤクルトに移籍。ヤクルトのスコアラーで昨年のWBCで侍ジャパンのスコアラーを務めていた志田宗大氏が、巨人に引き抜かれた。 パ・リーグでは“日本一”のソフトバンクから佐藤義則投手コーチが楽天へ。鳥越裕介内野守備・走塁コーチと、清水将海バッテリーコーチは、井口資仁新監督に誘われてロッテへ移籍した。また1軍、2軍で7年間打撃コーチを務めていた藤井康雄打撃コーチも古巣のオリックスへ復帰している。 契約切れや呼んでもらった監督の退任などによりユニホームを脱ぐことになった有能なコーチが他球団に拾われるケースは多々ある。だが、この移動が異例なのは、“引き抜き”或いは“移籍希望”をしてライバル球団に移った点にある。 それだけに出て行かれた側の心境は複雑なようで、先日、行われたセ・リーグ全監督による「ファンミーティング」では、この点を質問された広島の緒方孝市監督が「頼りになるコーチでした」と、思わず憮然とする場面もあった。 それはそうだろう。コーチ流出イコール、チームのノウハウや秘密を持ち出され、しかも、相手にデータだけでは見えない自チームの弱点を丸裸にされることになるのだ。 ID野球の元祖、野村克也氏は、監督時代に、選手のトレードやコーチの移動があると、これまで敵として対戦していて疑問に思っていたことをすべて聞き出していた。 「誰が何をどう教えているか」から始まり、もちろん、チームの最高機密である“サイン”や、その種類についても聞き出した。例えば、右打ちのサインひとつにしても、どういうタイミングで、どういうチーム方針で出されているかを知るだけで、相手監督の考えに触れることができ、ベンチ同士が作戦を読み合うような場面では多いに参考となる。 野球は心理戦である。相手ベンチに「すべてを知られている」と思わせるだけで嫌なものだろう。近年は、トラックマンシステムが導入されるなど、データの利用方法も変化してきているが、やはり人と人がやる競技である。人と共に流出する情報も影響力は少なくない。 ただ、今回の場合、ライバル球団からコーチを誘った側が目的としたのは情報の入手といった小さなものではなく、その強いチーム、優秀な選手を作り上げてきた指導力だ。