広島、ソフトからライバル球団へ異例のコーチ流出はどんな影響を与えるのか
ヤクルトはキャンプの練習メニューからガラっと変わった。 小川淳司新監督も「石井コーチ、河田コーチは大きな存在になっている。チームにいい影響を与えてくれている」と口にする。宮本慎也ヘッドコーチ就任の影響も大きいが、打撃練習では、石井打撃コーチのアイデアが生かされ、あの広島打線を作りあげた理論がチームへ徐々に浸透しつつある。重量打線を“つなぐ”ために凱旋帰国した青木宣親を4番で起用するアイデアも、宮本、石井打撃コーチから提案されたもの。 チームは、「スモールベースボール」を掲げており、河田コーチが、広島式の走塁の意識を植え付けている。打撃練習の合間に走塁のリードやスライディングを丁寧に教え反復練習を繰り返していた。オープン戦でのチーム盗塁数「13」は、12球団中5位。広島の「7」を上回った。ショートで起用される3年目の20歳、広岡大志が3盗塁をマークしている。 元巨人の代走スペシャリスト、鈴木尚広氏も、「広島は“失敗してもいいから思い切っていっていい”という走塁の意識がチームに植えつけられている。コーチが徹底したのだろう。どこからでも走れる選手が打線にちりばめられていることも大きいが、結局、機動力で重要なのは、成功率ではなく、企画数の多さにある。失敗を恐れない企画数と、意識が広島の機動力の凄さの理由だ。ヤクルトでは、足を使える選手は、山田哲人と広岡くらいしかいないのかもしれないが、広島で、そういう走塁を意識づけた河田コーチが入ったことで、走塁への意識が変わり、企画数が増えるのならば、得点力アップにつながる可能性はある。つなぎの4番という考えの青木も機能しそうだ」という見方をしている。 2人のコーチが流出しても広島が優勝候補であることに変わりはないがヤクルトに変革の兆しはある。
ソフトバンクからは、ロッテに有能なコーチが流出した。鳥越ヘッド兼内野守備走塁コーチはソフトバンクの強固なセンターラインを鍛えあげた人物で、何よりも性格が明るく、ペナントレースの中で浮き沈みのあるチームの士気を常に高めてもきた。 井口監督は、1、2軍の垣根をなくす異例のキャンプスタイルを導入して、チーム内の競争を活発化したが、共通の野球観を持って改革を推し進めてきたのが鳥越コーチだ。 ロッテは、内野のポジションをシャッフルさせたが、それを形にしたのが鳥越コーチの手腕。中村奨吾をセカンドに、鈴木大地をサードへ、ショートのポジションでは、3年目の平沢大河と、新人の藤岡裕大を徹底して鍛えて、早くも形にしつつある。戦力的には厳しいが、オープン戦では8勝4敗2分で2位につけた。 楽天の佐藤コーチもソフトバンクから古巣に戻った。故・星野仙一氏の右腕として阪神、楽天の投手陣を整備。ヤンキースの田中将大やカブスのダルビッシュ有といった大物を育てた。指導者としての引き出しが多く、コーチにありがちな“上への忖度”をしない人物だから選手からの信頼も厚い。 有能なコーチの流出は、ソフトバンクにとって痛手だろうが、チームリーダーの“熱男”松田宣浩は、「いいコーチが抜けて、ここからは、ピッチャーも野手も真価を問われると思う。でも、ホークスは変わらないし、新しいものをここから作っていく。本当の力から行けば勝てるし、勝つ」と、決意表明していた。 コーチが変わるだけで最下位のチームがいきなり優勝できるほどプロ野球は甘い世界ではない。最終的に野球をやるのはコーチでなく選手である。評論家の多くは、コーチの流出した広島、ソフトバンクを優勝候補挙げている。だが、戦術戦略や、ジワジワと、中長期でチームを強化するために大きな役割を果たすのはコーチの指導力である。 因縁の対決となる広島対ヤクルトは4月3日から神宮での3連戦、ソフトバンク対ロッテは4月14日からの2連戦から火蓋を切ることになる。