「33年連続・世界最大の対外純資産国」なのに貧しく感じるのはなぜか?「戻らぬ円」が示す残念な現実
■ 「戻らぬ円」のカギを握る名目賃金の上昇 後ろ向きの話ばかりではなく、あえて前向きな話をすれば、対外純資産が潤沢にあるうちは「まだ間に合う」という考え方も可能ではある。 目下、神田財務官の下で実施されている有識者会議「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」でも、国内還流しない日本の家計・企業部門の外貨資産は争点化しているところであり、やはりここから何を読み取り、どのような処方箋を割り当てていくべきかが問われている。 委員によるリードスピーチ資料は既に順次公開されているので参照にされたい(筆者資料は第1回会合に掲載されている)。いずれも国際収支から浮き彫りになる日本経済の課題を仔細に浮き彫りにしており、学ぶところが多い: ◎国際収支から見た日本経済の課題と処方箋(財務省) もっとも、図らずとも「戻らぬ円」が返ってくる目はあるかもしれない。というのも、現状の日本では人手不足が深刻化しており、その状況は今後ますます悪化することが目に見えている。 必然的に今後の日本経済では名目賃金が上昇基調に入っていくはずである(実質賃金の議論はここでは脇に置くが、およそ人が足らないにもかかわらず名目賃金が上がらないということは考えにくい)。その際、企業部門はこれまでよりも「戻らぬ円」を活用せざるを得ないのではないか。 そのほかに「円安を活かすカード」、言い換えれば処方箋の議論は多岐にわたるので、今回の本欄では深掘りしない。 重要なことは日本が抱える世界最大の対外純資産は、その構造も含めて日本経済の歩んできた結果であり、現状を見る限り、前向きな評価を与えるのは難しいと言わざるを得ない。 だが、今後日本経済が飛躍の時を迎えるとしたら、それを活かすことが条件になるのもまた、間違いないように思う。世界で一番外貨建ての資産を持っている国としての強みを活かすことに活路はある。 ※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2024年6月4日時点の分析です 唐鎌大輔(からかま・だいすけ) みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト 2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(2022年、日経BP 日本経済新聞出版)。
唐鎌 大輔