「33年連続・世界最大の対外純資産国」なのに貧しく感じるのはなぜか?「戻らぬ円」が示す残念な現実
■ 虚しく響く「世界最大の対外純資産」の肩書き 言うまでもなく、フロー(国際収支)の構造が変われば、その蓄積であるストック(対外純資産)の構造も変わっている。再投資収益を含む直接投資収益増加の背景には、それを生み出す直接投資残高の増加があり、実際にそうなっている。 対外純資産の項目別構成比率を見ると、2014年を境に直接投資が証券投資を逆転しており、両者の差は拡大傾向にある(図表(2))。 【図表(2)】 「世界最大の対外純資産国」という肩書きは、その構成比率の過半が証券投資で構成されていた時代は「リスクオフの円買い」ないし「安全資産としての円買い」という相場現象と密接にリンクしていたので、ポジティブな意味合いも含まれていた(もっとも当の日本人は円高を忌避していたが)。 ところが、足もとの為替市場で起きていることは、ドル/円相場では34年ぶりの円安水準、実質実効為替相場では「半世紀ぶりの円安」であり、33年連続「世界最大の対外純資産国」という肩書きは虚しく響いている。 後述するように「戻らぬ円」の割合が増えている象徴としての「世界最大の対外純資産国」であれば、もはやネガティブな意味の方が大きく感じられてきてしまう。
■ 対外純資産の増加が示す残念な事実 経常収支や対外純資産の直面している状況は、これまでの日本経済の結果である。言い換えれば、毎年のように過去最高を更新する世界最大の対外純資産が示すのは「日本に期待収益率の高い投資機会が乏しかった」という歴史的な事実である。 過去には機関投資家や外貨準備を通じた海外への証券投資が支配的であったが、2011年以降は企業による直接投資まで勢いを得るようになった。結果として日本企業の海外内部留保残高は積み上がるばかりである(図表(3))。 【図表(3)】 そうした動きを反映して世界最大と言われる対外純資産残高は増勢を保っているが、それは企業部門を中心として「戻らぬ円」の割合が増えていることの裏返しでもある。 結果、経常収支に関し「統計上でこそ黒字だが、キャッシュフローでは断続的な赤字」という疑義が生まれ、これが円安長期化の底流として指摘される現状がある。その意味で円安もまた、日本経済が抱える問題の「原因」ではなく「結果」と表現するのが妥当である。 もちろん、対外純資産国の方が対外純債務国よりも救いはある。しかし、それは対外資産に関し、還流させるだけの妙案か勝算があって初めて言えることだ。 対外資産が半永久的に回帰しないことを前提にしてしまえば、キャッシュフローベースでは純債務国に近いような通貨売りに直面する場面が出てきても不思議ではない。 2022年や2023年を振り返ってみれば、筆者の「構造的な円安を疑った方が良い」という言説に対し、「成熟した債権国としての地位が保たれており、構造的円安論は行き過ぎ」という反駁は何度も見られてきた。 だが、110円付近から始まった円安は今や160円まで進んでいる。構造的な議論を避けられるような状況とは到底思えない。 符号上は「成熟した債権国」でも、その実態(≒キャッシュフロー)が「債権取り崩し国」に近いからこそ円安が長引いているという側面は考える必要はないのだろうか。真偽は別にして、すべてを日米金利差で片づけようとする態度にはやはり同意できない。 ちなみに、対外純資産の4割弱は外貨準備だが、これも執拗に通貨安を志向し、円売り・ドル買い為替介入を重ねてきたことの結果である。社会全体で円安を金科玉条のごとく崇め奉る風潮が結実したのが外貨準備という側面もある。その望み通り、今は円安が常態化している。