韓国大統領「非常戒厳」を宣布、国政がまひ状態と 国会の要求受け解除を表明
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は3日夜、国民に向けて緊急のテレビ演説を行い、「非常戒厳を宣布する」と発表した。「国政はまひ状態にある」として、北朝鮮の共産勢力の脅威から韓国を守り、自由な憲法秩序を守るためだと説明した。これに対して韓国国会は4日未明、非常厳戒の解除を求める決議案を可決。尹大統領は同日朝、解除すると発表した。 尹大統領は4日朝、「国会の非常戒厳解除の要求を受け、戒厳部隊は撤収した」、「私は国会の要求を受け入れ、閣議を通じて非常戒厳を解除する」と述べた。 ソウルの国会前には非常戒厳に抗議する市民らが多数集まっていた。尹氏の劇的な解除を受け、群衆からは歓声が上がった。 AFP通信は、抗議者の一人が太鼓をたたきながら「私たちが勝利した!」と叫んだと伝えた。 これより先の4日午前1時すぎ、韓国国会(定数300)は戒厳令の解除を求める動議を可決した。聯合ニュースによると、出席した与野党の議員190人全員が賛成した。これを受けて、国会の禹元植(ウ・ウォンシク)議長が、「戒厳の宣布が無効になった」と表明した。 韓国憲法は、国会議員の過半数が賛成して要求した場合、政府は戒厳令を解除しなくてはならないと定めている。さらに、戒厳下でも国会議員の逮捕は認められていない。 禹議長は正式に、非常戒厳の解除要求が可決されたことを、大統領府と国防省に知らせた。 非常戒厳の解除を要求した国会議員約190人は4日午前2時半の時点で、採決後もそのまま本会議場にとどまった。政府が議会解散を強行しようとした場合に、対抗するためという。 韓国メディアによると、韓国防衛省は尹大統領が自ら戒厳令を解除するまでは、戒厳体制を維持すると表明した。 聯合ニュースによると、議事堂に入っていた韓国軍の兵士たちは決議案採決後、議事堂から撤収したと、禹国会議長が明らかにした。兵士たちは、大統領による非常戒厳宣布を受けて、一時的に議事堂に入っていた。 採決に先立ち、大統領の発表を受けて、与党「国民の力」の韓東勲(ハン・ドンフン)代表が「大統領の非常戒厳の措置は間違っている。国民とともに阻止する」と述べていた。 さらに、議会で過半数を持つ最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は、戒厳令は違憲だと反発。同党の議員全員に、国会に集まるよう呼びかけていた。 採決に参加した「共に民主党」の李盛潤(イ・ソンユン)議員はBBCに対して、議事堂に入るために高さ1.5メートルのフェンスをよじ登る必要があったと話した。 議員の身分証を示しても、警察に敷地内に入るのを警察に阻止されたのだという。 ■騒然とした国会前 国会採決に先立ち韓国メディアは、大統領の「非常戒厳」宣言を受けて、韓国軍が国会活動の禁止を発表したと伝えた。 聯合ニュースによると、戒厳司令部は3日夜、「全ての言論と出版は戒厳司令部の統制を受ける」などとする布告を発表した。 韓国に非常戒厳令が宣言されるのは、1987年の民主化宣言以来、初めて。 大統領の発表を受けて、議事堂内には多くの議員や報道関係者が集まり、騒然とした。議事堂の外に集まった人たちは「戒厳令反対」、「独裁を倒せ」、「門を開けろ」などと連呼した。 国会議事堂の入り口が封鎖され、議員が入れない状況になった。 ■選挙で与党大敗、支持率低迷 今年4月の総選挙で与党が大敗して以来、尹大統領は政策実行に必要な法案を議会通過させることができず、逆に野党が可決する法案に次々と拒否権を行使せざるを得ない状態に陥っていたと、BBCのジェイク・クウォン記者は指摘する。 さらに大統領をめぐっては、妻・金建希(キム・ゴニ)氏に関するスキャンダルが相次ぎ、政権支持率が下がり続けていた。野党は、金氏に対する特別検察官による捜査を立ち上げようとしていた。 最近では、政府と与党が提出した来年度予算案を、野党が大幅に減額して単独可決した。大統領は予算案に拒否権を行使できない。さらに野党は、金氏を立件しなかった政府の監査トップなど政府幹部への弾劾訴追を次々と発議している。 クウォン記者は、尹大統領はこうした状況を受けて、「反国家」勢力が国をまひさせようとしていると主張し、秩序回復のためだとして非常戒厳を宣布したのだと説明した。 (英語記事 South Korea president backs down from martial law order after MPs vote to block itCrowds celebrate as South Korean president withdraws troops)
(c) BBC News