「おいでおいで」と一年の福を引き寄せる招き猫 年の初めに願いを託す愛らしい縁起物 彩時記~1月・睦月
江戸の土で「丸〆猫」を再現
かつて東京・浅草周辺で作られた「今戸焼」の土人形が招き猫の元祖とされている。「丸〆猫(まるしめのねこ)」といい、横座りでよだれ掛けを着け、腰に「〇に〆」の模様が浮き上がっているのが特徴だ。
「福徳を丸くせしめる(丸ごと自分のものにする)、という験担ぎの意味があります。江戸時代末期の文献に浅草で大流行した記述が残っていて、錦絵にも描かれていますよ」
今戸人形作家の吉田義和さん(62)が絵筆を動かす手を止め、表情を緩めた。
作り手が絶え、戦前までに廃れてしまった地元の素朴な郷土玩具を復元したいと約30年前、この道を選んだ。古い招き猫をはじめ、文献や遺跡からの出土品まで徹底的に研究することから始めた。
基礎となる土は隅田川・荒川流域から採取し、丁寧に精製する。粘土ができたら型で抜いて焼き、カキ殻から作られた胡粉(ごふん)や膠(にかわ)などで色を付ける。江戸の土と昔ながらの手法にこだわる。
「だから『江戸前』といえるのです。風合いも含めて、できるだけ昔の姿を再現して伝えたい」と、吉田さんは熱意を込めた。(榊聡美)