「大量解雇を許す社会にしてはいけない」労働者自身が自分の権利を守るためにできること
2022年11月、ツイッター社が従業員を大量解雇したニュースは記憶に新しい。「不当解雇ではないか」との声がある一方で、「日本は解雇規制が厳しいから経済が上向かないのではないか」という大量解雇を好意的に受け止めるような意見も見られた。このような状況に警戒を促すのは、労働問題やブラック企業問題に取り組む弁護士の嶋崎量さん。「ツイッター社の大量解雇に対する世論の受け止め方が、裁判所の判断にも影響を与える可能性がある」と語る嶋崎さんに、労働者の権利を守るためにできることについて聞いた。(聞き手:荻上チキ/TBSラジオ/Yahoo!ニュース Voice)
「会社の業績悪化によるリストラは受け入れるしかない」は誤解
――2022年11月にツイッター社が社員を大量解雇していることが報じられましたが、このニュースに対して嶋崎さんはどう思いますか。 嶋崎量: 労働者は理不尽でひどい扱いを受けているはずなんですけど、わりと好意的に受け止める声もあるんですよね。こういったニュースが報じられても「日本の経済が上向かないのは、厳しい解雇ルールがあるからじゃないか」とか「解雇規制が厳しいから賃金が上がらないのではないか」といった労働者からの声も少なくありません。こういった声が上がるのは、自身の賃金に不満を感じたり、自分の働きが評価されていないと思う人がいるからじゃないでしょうか。 しかし、所得や性別、正規・非正規に関わらず、労働者自身が当たり前の権利を認め、守っていくことはとても重要です。不当解雇は自分には関係ないと思っている人が多いかもしれませんが、守られるべき権利が保護されていないと、自分にも返ってくる可能性がありますからね。そういった意味でも、なぜ労働法が必要なのか、改めて意義を周知する必要があると痛感しました。 ――日本でも大量解雇の事例などはあるのでしょうか。 嶋崎量: 大きく業績が悪化したときや事業を閉鎖するときに、大量解雇が発生したことはありました。2008年のリーマンショックのときは非正規雇用労働者の大量解雇が話題となりましたが、実は正社員も大量にリストラされました。 これまでの日本では、イーロン・マスク氏のように、企業のトップがいきなりあんな発言をすることはなかったと思います。今回話題になっていた発言によって、「大量解雇が許される世論づくり」や「大量解雇は有効だ」と思わせてしまう危険があるので、対抗する対応を考えなければいけないと思いますね。 ――大量解雇が報じられると「会社の業績が悪いのだから、誰かが辞めなければならない」「会社そのものがなくなったら、どのみち全員が職を失う」といった意見も聞かれます。 嶋崎量: 経営危機を理由としたリストラに対して、「会社が倒産したら、あなたの仕事もなくなるんだから解雇はしかたない」と受け入れる人は少なくありません。特にコロナ禍においては、感染症の拡大自体は経営者の責任ではないので、労働者も「しかたない」と受け入れてしまいやすかったと思います。 しかし、そのような場合も解雇を受け入れなければならないわけではなく、解雇を「しかたない」と判断するのは労働者側の誤解です。企業側は内部留保として蓄えてあるお金を使ったり、経営者の役員報酬を減額したり、借り入れをしたり、雇用を維持するためにできることをすべきなのです。それがたとえコロナ禍であっても、行政から雇用調整助成金の支援を受けるなど、解雇という最終手段を使う前にできる努力をする必要があります。実際、雇用調整助成金の申請もせずに解雇したケースでは、解雇を回避する手段があったのに取らなかったと判断され、解雇無効になった判例も出ています。雇用を維持する手段があったのにできることをせず、例えば給料が高い人を真っ先に解雇するケースは今までもたくさんありましたが、それがたとえコロナ禍でも許されないということですね。