「大量解雇を許す社会にしてはいけない」労働者自身が自分の権利を守るためにできること
「ブラック企業」はネットで生まれた言葉――個人の発信が裁判所の判断に影響を与える
――労働者の労働環境を守るためには、社会全体でどういった動きが必要だと思いますか。 嶋崎量: 職場に労働組合があって、そこから情報が出てくるような働き方ばかりではない中で、SNSで沸き上がった声から、社会のいろんな闇や隠された不当な働き方が浮き彫りになることはよくあります。例えば、「ブラック企業」という言葉は、労働組合とは縁のないような働き方をした若い人たちの発信でネット上に生まれたスラング(俗語)なんです。社会に隠された深い闇が、インターネットの世界を通じて発覚することは結構あるなと実感しています。 ネット上には罵詈(ばり)雑言や不適切な言論もはびこりますけど、なかなか職場では言えないハラスメント被害も匿名だから言えたりするものです。そこで自分の被害をうまく可視化することで救済に結びつけられる方もいるので、愚痴を発信することもすごく大事なことだと思います。 ただ、派遣など非正規雇用と言われる人たちの働き方、公立学校教員の働き方など、なかには法律自体が変わらなければ救われない部分もあります。だからこそ、私は弁護士という立場から日々そういった皆さんの声を拾おうとしていますし、そういった声を反映できるように政策的な働きかけもしています。皆さんが発信した声が社会を動かし、法律を変えることにつながることもあるのです。 労働法の世界では社会通念が結論を左右することが多いのですが、裁判所における社会通念も15年前とはだいぶ変化しています。これは、ただ裁判所が変わったのではなくて、被害者の声の積み重ねで変わってきたんだと思います。例えば、解雇の判断において何が許されるのか、実はすごくアバウトで、最後は合理性や相当性という判断要素で決まってしまいます。ツイッター社の大量解雇に対する世論の受け止め方についても、それが裁判所の感覚にじわじわと影響を与えるものだと感じています。私も日々、発信の主体になろうと思っていますが、多くの人たちに「自分の発信が社会に影響を与えるんだ」と自覚を持ちつつ、発信に関わってほしいですね。 ----- 嶋崎量(しまさき ちから) 1975年生まれ。弁護士。日本労働弁護団常任幹事。神奈川総合法律事務所所属、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、反貧困ネットワーク神奈川幹事など。主に働く人や労働組合の権利を守るために活動している。著書に「5年たったら正社員!?-無期転換のためのワークルール」(旬報社)、共著に「裁量労働制はなぜ危険か-『働き方改革』の闇」「ブラック企業のない社会へ」(いずれも岩波ブックレット)など。 文:優花子 (この動画記事は、TBSラジオ「荻上チキ・Session」とYahoo!JAPANが共同で制作しました)