WBC則本のストッパー起用の是非
勝負に“たられば”は厳禁である。 しかし、牧田の10、11回のパーフェクトなピッチング内容を見せられると、1点のリードで迎えた9回を則本ではなく、最初から牧田で行っていたなら、タイブレークの徒労もなかったのではないか、と思わざるをえない。なぜ則本だったのだろう。 オランダ戦の試合後の公式会見で、9回の則本投入の真意を聞かれた小久保監督は、「今日は則本で行こうと。理由はないです」と答えた。 だが、則本の名前がコールされたとき、私は、4日前の権藤投手コーチのコメントに合点がいった。 1次ラウンドのキューバ戦、豪州戦と続けて侍ジャパンは「牧田ストッパー」で成功していた。試合後、「もう牧田ストッパーということですよね?」と権藤投手コーチに念を押すと、小久保監督から投手起用に関して全権を預けられている人は、首を横に振ったのだ。 「きょうは、牧田が豪州打線に合うと考えたから使ったが、抑えは、まだ決めていない。そのうち煮詰まってくるだろうが」 ダンディズムを重んじる権藤投手コーチは、嘘をつくことが嫌いだし、それが結果的に嘘となることも好まない。権藤投手コーチの腹の中に、この時点から則本ストッパー案がずっとあったのである。 しかし、権藤投手コーチが温存してきた則本ストッパーは結果的に失敗した。 1点リードの9回一死からボガーツを歩かせ、続くバレンティンにスライダーをライト前へ運ばれる。グレゴリアスは、155キロのストレートでレフトライナー。筒香を下げ、青木をレフトに代えていたベンチの采配が功を奏して同点のタッチアップを許さなかった。だが、二死一、三塁にしてから、オリオールズで昨季自己最多の25本塁打を放ったスクープに154キロのストレートをはじきかえされ、名手、菊池が飛び込んだグラブの下を同点タイムリーがすり抜けていったのである。 「もっと慎重にいくべきだった」。試合後、則本はそう悔やんだが、ストッパーにとって「えいや!」の勝負が、もっとも危険なのである。 ブルペンでスタンバイしていた牧田は、「9回は自分かな」と心の準備をしていたという。だが、権藤投手コーチが、ブルペンにきて9回は牧田でなく、則本でいくことを告げた。 牧田は、則本のストッパー起用の理由を、「一発のあるオランダ打線には三振がとれなければならない。力対力で三振をとれるということで則本に決めたんだと思う」と見ていたが、おそらく権藤投手コーチが、則本ストッパーにこだわった理由も、そこにあるのだろう。