更年期以降に起きやすい!「甲状腺機能異常」になりやすい人の特徴とは?医師が解説
更年期前後において、「最近疲れやすくてイライラする、むくみやすい」「普段から動悸がしやすく、汗をよくかいて体重が減少している」という場合には更年期障害だけでなく、甲状腺機能異常が隠れている可能性があります。医師が解説します。 〈写真〉更年期以降に起きやすい!「甲状腺機能異常」になりやすい人の特徴とは? ■甲状腺機能異常とは? 甲状腺機能異常のなかには、甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症があります。 前者の甲状腺機能亢進症とは、甲状腺の過活動によって甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気であり、主な症状としては、甲状腺の腫れ、大量の発汗、体のほてり、食欲亢進、体重の減少、手の震え、動悸、息切れ、疲れやすいなどの症状が挙げられます。 これらの症状を引き起こす理由は、過剰な甲状腺ホルモンが自律神経に影響を及ぼす結果、甲状腺ホルモンが交感神経への刺激を強くしたり、体の熱産生を活発にさせたりするためであると考えられています。 ■■甲状線機能亢進症 発汗・動悸・不眠・焦燥感・いらいら・月経不順・暑がり・易疲労感など、更年期障害でもよくみられる症状を来たすことがあります。 その他にも、息切れ、下痢、体重減少、手指振戦、高血糖などを認めることがあり、循環器疾患、消化器疾患、神経内科疾患、糖尿病などとの鑑別が必要になる場合もあります。 ■■甲状腺機能低下症 易疲労感・めまい・記憶力低下・うつ状態・月経不順・皮膚乾燥・脱毛など、やはり更年期障害でもみられる症状が多く、さらに精神疾患との鑑別も必要になります。 それ以外にも、甲状腺機能低下症においては、寒がり、便秘、体重増加、筋力低下、浮腫、コレステロール高値、肝機能異常など、様々な内科的疾患にもみられる症状をきたすことがあります。 ■更年期以降に起きやすい甲状腺機能異常になりやすい人の特徴とは? 更年期前後において、「最近、疲れやすくてイライラする、むくみやすい」「普段から動悸がしやすくて、汗をよくかいて、体重が減少している」という場合には、更年期障害だけでなく、甲状腺機能異常が隠れている可能性があります。 特に、このような症状で受診されるケースは、主に20代から50歳代の女性が多く、特に50歳前後で更年期障害が出やすくなる年齢の人が一番多いといわれています。 更年期障害と甲状腺疾患の症状は類似している点もあり、更年期障害に典型的な疲れやすい、ほてり、ホットフラッシュ、イライラする、動悸などの症状は、実際には甲状腺機能異常にも該当することが多いです。 自覚症状だけでは更年期障害か甲状腺機能異常かを鑑別診断することは意外に難しい場合が多く存在します。 長年にわたって、更年期障害と思って市販の漢方などを飲んでいたけれど、実は甲状腺機能異常だったという実例もありますので、更年期障害に対する治療効果が乏しい際には、甲状腺ホルモンを検査してチェックすることも検討の余地に入ります。 ■甲状腺機能異常に対する対策とは? 更年期障害や甲状腺機能異常に関連する症状を認める場合には、医療機関で血液検査を実施します。 その具体的な内容としては、閉経の診断のためのエストロゲン(E2:エストラディオール)、卵胞刺激ホルモン(FSH)などのほか、甲状腺機能異常を調べるために甲状腺ホルモン(fT3・fT4)および甲状腺刺激ホルモン(TSH)を検査します。 fT3・fT4が高値でTSHが低値であると甲状線機能亢進症が疑われますし、fT3・fT4が低値でTSHが高値であると甲状腺機能低下症が疑われます。 もし、甲状腺機能異常が疑われた場合は、甲状腺疾患に詳しい専門の内分泌内科を紹介されて、状態に応じて適切な治療の選択肢を提示されます。 ■まとめ これまで、甲状腺機能異常とはどのような病気か、更年期以降に起きやすい甲状腺機能異常になりやすい人の特徴や甲状腺機能異常に対する対策などを中心に解説してきました。 更年期の女性に、甲状腺機能の異常がみられることは少なくなく、更年期障害に対してホルモン治療を行っても改善しない場合には、実際には甲状腺機能異常が隠れているという可能性も考えられます。 更年期障害に関連する様々な症状が出現する原因は、必ずしも女性ホルモンの低下だけではなく、甲状腺機能が亢進していても、低下していても、更年期障害と紛らわしい症状を認めることがあります。 正確に診断するには甲状腺ホルモンや女性ホルモンに関する精密検査が必要になりますので、心配する症状が見られた更年期女性の方は、婦人科や代謝内分泌内科など専門医療機関を受診して相談しましょう。 ライター/甲斐沼孟 医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センターや大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センターなどで消化器外科医・心臓血管外科医として修練を積み、その後国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長として地域医療に尽力。2023年4月より上場企業 産業医として勤務。これまでに数々の医学論文執筆や医療記事監修など多角的な視点で医療活動を積極的に実践している。
甲斐沼 孟