「こしょう」への欲望が生んだ「株式会社の発明」 資本主義の最も重要な手法の1つだが副作用も
このテニュア方式をもっと強化するべきだ。例えば、保有期間が1年増えるごとに、1株につき1票、議決権が増えるというぐらいにまでするべきではないだろうか(増えるのは1株につき最大20票までなど、上限は設けたほうがいいだろうが)。いずれにしても、なんらかの方法で、投資家の長期的な関わりに報いることが必要だ。 第2には、株主以外のステークホルダー(従業員、供給業者、地域社会など)の、経営への発言権を強め、株主の力を制限する必要がある。これは長期の株主も含めてだ。株主の問題(と強み)は、たとえ長期の株主であっても、いつでもその企業との関わりを断てる点にある。株主よりはるかに流動性の低いステークホルダーに一定の力を与えることで、企業の「所有者」とされる人たち(株主)よりも企業の将来に切実な関心を持っている人々に力を配分できる。
第3には、株主の目を企業の長期的な将来に向けさせるため、株主の選択肢を制限する必要がある。そのためには数ある金融商品のうち投機的な性格の強いものを規制して、「手っ取り早く稼げる」チャンスを減らし、逆に長期の株式保有者の優遇策を増やすという方法が考えられる。 ■同じスパイスを使っても… 有限責任は資本主義が生み出した最も重要な手法のひとつだ。しかし、それが今の金融自由化と短気な投資家の時代(もっと専門的な言葉でいえば、「金融化」の時代)には、経済の進歩の原動力ではなく、妨げになってしまっている。
有限責任という制度には改革が必要であり、そのためには金融の自由化や、ステークホルダーによる経営への影響といった、有限責任にまつわる仕組みも変えなくてはならない。 同じスパイスを使っても、料理の味を引き立てる場合と台無しにする場合とがある。それと同じで、ある状況ではとびきり役に立つ制度が、別の状況では大きな問題を引き起こすことがある。 (翻訳:黒輪篤嗣)
ハジュン・チャン :ロンドン大学経済学部教授