累計発行部数2000万部以上の編集者が明かす、「スケジュールは“分刻み”」超マルチタスクでも大ヒットを生み出す意外な仕事術
「1日で原稿150枚書き上げる」“早い仕事”ができる環境を作っておく
当たり前の話だが、1日は24時間しかない。 草下さんは、過去に『実録ドラッグ・リポート アジア編』(彩図社)を1日で原稿150枚を書き上げたことがあるという。『ヒットを生む技術 小規模出版社の編集者が“大当たり”を連発できる理由』(鉄人社)のあとがきは、スマホのメモ機能を使って1時間で書き上げたそうだ。担当編集者いわく、「赤入れ(修正)する必要がまったくなかった」とか。 草下さんによると、コツは「“早い仕事”をする」ことだという。これは、ただ早く仕事をこなせばいいわけではない。 スピード感を持って進めることができて、修正があまり入らないような仕事をする、という意味なのだとか。 「“遅い仕事”ということは、越えなきゃいけない課題があるということ。課題の解決が難しいから時間がかかるんです。原因としては、人脈がないか、知識や経験が不足していることが多いですね。 早い仕事は、始める前から課題がきれいにクリアされていて、一本の線でつながっています。だから、普段から人間関係を円滑にしておいたり、インプットをして引き出しを増やしたりと、環境を作っておくことが大事なんです」 仕事を優先すると、プライベートが犠牲になりがち。しかし、環境作りも意識して、人間関係には気をつけていたのだという。 「どんなに忙しくても、お祝い事に呼ばれたら出席したり、友達が犯罪を犯したら面会に行ったりしていました。やると決めたことはやります」 インプットは、どのようにしていたのか。実はそこに、ヒット作を生み出すコツが隠されていた。
話題になったものを「自分だったら」という視点で見る
インプットに関しては「どんなジャンルでも話題になっているものは、ひと通り見るようにしています。売れるような特性がある、ということなので」と話す。その中には、イマイチなものもあるはずだが……。 「基本的には意地悪な思考をベースにインプットしない方がいいですよ。あえて誹謗・中傷をするために情報を探す人もいますが、それは負の感情だから、腐ってしまう。豊かじゃないし、育ちません。ポジティブに『楽しもう』『いいところを見つけよう』と思って見たものだけが蓄積されていき、いつか成熟させることができるんです」 草下さん独自の仕事術が光るのは、その先だ。 「ただ、もしもすごい話題になってるのに『イマイチだな』と思ったら、実はこれがいい企画になるチャンスなんです。自分が『何かが足りない』と思ったということは、同じように思った人もいるはずなので。 『こういう観点だったらもっと面白くなるな』『自分だったらこうするな』という視点を意識すると、アイデアが出てきます。ヒットしている商品の特性のところから、自分なりのものをアジャストすれば、新しい企画になるんですよ」 例えば、草下さんは『13歳のハローワーク』(幻冬舎)を読み、「これで自分がよく知る裏社会バージョンも作れば面白いのでは?」と思って『裏のハローワーク』(彩図社)を作った。他にも『読めないと恥ずかしい漢字』(河出書房新書)を読んで、「自分は漢字を読めるけど書けないことが多いな」と思って『書けないと恥ずかしい漢字』(彩図社)を作った。 このように自分なりの視点に置き換えることの他にも、大事なのはインプットの“量”だという。 「何かを作り出す時は、自分の中に積み重なっている情報や感覚から、その都度で必要なものがピックアップされるんです。5のインプットから、5のアウトプットは生まれません。本だけでなく、映画、絵画、音楽……それらはすべて、脳に刻まれています。どれだけインプットを続けて蓄積したかが、勝負になってくるんですよ」 いろいろなものに興味を持ち、引き出しを増やしていく。こうして作られたもののひとつが、『文豪たちの悪口本』(彩図社)だ。草下さんといえば“裏社会”のイメージが強いので、意外に思えるが……。 「中原中也が好きで、昔からよく読んでいたんです。彼はすごく毒舌で、そんな彼の手紙を読んでいた経験から、あの本が生まれました」