「仕方なく食べる日」をなるべく少なくする、大好きなものは年2回まで。料理研究家・瀬尾幸子【白央篤司が聞く「50歳からの食べ方のシフトチェンジ」vol.2】
買いものは徒歩15分圏内
──本書はページをめくるたび、「こんなのでもいいじゃない?」と語りかけられてくるようで、気がラクになります。ただ「がんばらない」けれど、料理からは「遠ざからない」というスタンスが一貫している。ごく簡単なアイディアもあれば、ミキサーを使う日もあり、イワシを手開きする日もあり。 イワシの手開きなんて5匹買ってきて5匹やってみれば、誰でも絶対できるようになりますから。ぐちゃぐちゃになったら“なめろう”にすればいいんだし。あのね、「ちゃんとしなくちゃいけない」とみんな思い過ぎなんだね。ちゃんとするのも大事だけど、するべきところと、しなくてもいいところがある。そこを自分の中で分けるのがポイントじゃないのかな。 ──瀬尾さんの場合、そこのポイントはどういう点ですか。 いろいろあるけど、「仕方なく食べる日」をなるべく少なくする、こともそうかなあ。「うちの近所ではこんなものしか買えないから、しょうがない」って気持ちで料理したり、食べたりしてるとつらいでしょう。しょうがないようなものでも、いかに「ちょっとおいしく、楽しく」食べるかに変えたいのね。 ──ああ、そういうことが瀬尾さんの「ちゃんとする」なのですね。 ちゃんと作りもするけど、おいしいものを求めて遠くまでは行かない。買いもの、私の場合は徒歩15分圏内って決めています。自分の生活範囲で調達できるものでなければ、自炊は続かないから。
「芯」とか「骨」の部分だけ作っておく
──60代向けのレシピ本を作るにあたって、同年代の食生活をリサーチするようなことはされたのですか。 ちょっと言いにくいけど、スーパーで買いもの中に同年代らしき方たちのカゴの中を観察しましたね。やっぱりおそうざいやお刺身を買われる方が多い。ひとり分、ふたり分を作る難しさを感じてるんだなって。私たちって、買ってきたものを食べるのにちょっと罪悪感を覚えちゃう世代でもあるじゃない? そこで何か簡単なひと手間でも、買ってきたものに加えると「ちょっとは私、体に気をつかってるな」と思えて、気持ちも晴れると思うのよ。 ──瀬尾さんの以前の本(『賢い冷蔵庫』NHK出版)に登場した、「玉ねぎだけのタルタル」なんてまさにそんな存在ですね。玉ねぎを刻んでマヨで和える、シンプルなタルタル。買ってきた揚げものに添えるだけでも、「なんか私、食に気をつかってる」という気持ちになれる。 あれもいいでしょ? なんでもさ、「芯」とか「骨」の部分だけ作っておけばいいと思うのよ。タルタルソースもあれこれ揃えて作ると大変。玉ねぎだけで作っても充分おいしくてラク! やりたいとき、やれるときに、他の材料を刻んで後から加えたっていいんだから。 ──料理への気軽なアプローチを紹介するのと同時に、栄養への意識もうかがえます。レシピの脇に「たんぱく質をちょっと入れたいの」なんてささやきが添えられている。 60歳過ぎると筋肉どんどん落ちちゃいますからね。たんぱく質を入れればうま味も加わるし。だけど重い味はつらくもなってくる。ささみやしらすに桜えび、そして厚揚げや豆腐の大豆食品がありがたい。 ──食欲をキープする上では運動も大事かと思いますが、瀬尾さんはそのあたり、どうされていますか? 聞かないで。言えません、週5回ダンスに通っているなんて。ジムでエアロビクスをふと始めてみたら楽しくて、私こんなに踊りが好きなんだったらレッスンに通ってみようかと思って、よく分からず始めてみたの。そこからどんどんハマって、今ではアフロポップスで踊ってます。50歳過ぎたら積極的に動いていかないとね、骨も強くしたいし。 ──す、素晴らしいです! 瀬尾さんといえばお酒好きで知られますが、汗をかいた後の晩酌は…… もう大変おいしい。でもやっぱりね、量は減りましたよ。今は1日2合までって決めてるの。でもそれより多くなる日もあるし、1合でやめる日もあるし。季節感のあるものをつまみにして、楽しんでいます。