ファンキー加藤インタビュー・前編 溢れ出す「プロレス愛」。三沢光晴さんのこと。 そして「VOYAGE」制作秘話
初の著書『未完声』が発売されて2か月「ソロデビュー10周年をすごくいい形で彩ることができた1冊になったなと思います」
ソロデビュー10周年を記念して、ファンキー加藤さんの初著書「未完声」(徳間書店)が発売された。「自選歌詞26曲&モノローグで記すソロ活動10周年の軌跡」と銘打たれた「未完声」には、ファンキーモンキーベイビーズ時代の名曲や、ソロのヒット曲「輝け」、ももいろクローバーZに提供した楽天・田中将大投手の入場曲「吼えろ」など様々な楽曲の歌詞とエピソードが収録されているが、プロレスTODAY的な注目は「VOYAGE」。プロレスリング・ノアの会場で第一試合開始前に流されて、観客の心を熱くさせるプロレスファン必聴の名曲だ。加藤さんが「VOYAGE」に込めた思いや、三沢光晴さんと会って感じたこと、初の日本武道館公演に当たってひそかに抱いていた思いなど、プロレスファン必読のインタビュー、前編をお届けしよう。 【動画】ファンキー加藤「VOYAGE」【2022.1.1「ABEMA presents NOAH “THE NEW YEAR” 2022」テーマ曲】|プロレスリング・ノア ――初の著書「未完声」が発売されて2か月。反響はいかがでしょうか? ずっとファンキー加藤を応援してくれたファンの皆さんも「今まで知らなかった」というエピソードがあったり「ここまで深掘りしているとは思わなかった」みたいな声もたくさん聞きますね。本当に、ソロデビュー10周年をすごくいい形で彩ることができた1冊になったなと思います。 ――「未完声」には、ファンキーモンキーベイビーズ時代は超ハードスケジュールで疲弊していたことや、ソロになってからの苦悩なども明かされていました。そうした話はこれまで発信することはなかったのですか? 発信する場もなかったというか。ラジオとかテレビに出させてもらうときもそこまで深く話さず「いろいろ大変なことがありましたけど」みたいな。自分のファンクラブ限定の生配信でも努めて明るく喋ってますし、「ファンキー加藤」という名前を背負ってしまった以上(笑)、いつも元気な姿を見せないといけないな、というのもあって。苦しかった日々とか辛い思い出をここまで明かしたことはないと思います。だから結構「未完声」を読んでびっくりした人も多かったみたいですね。でも「ここまで苦しい日々だったんだ」っていう形でファンの皆さんはそういう部分もしっかり肯定的に受け止めてくれてるというか。最初は「俺なんかの本で大丈夫かな?」って懐疑的な部分もあったんですけど、結果的に良かったです。 ――「未完声」は詩集でもあって、ファンキーモンキーベイビーズの楽曲とファンキー加藤さんのソロ楽曲の歌詞がところどころに散りばめてあって、ソロベスト盤「「My BEST」を聴きながら「未完声」を読むと詩の世界が広がりますね。 その聴き方、読み方をして貰うのがベストだと思います。 ――その中で「プロレスTODAY」的な最注目ポイントは、プロレスリングノアが第一試合開始前に必ず会場内に流す「VOYAGE」です。 これはいい歌!(笑) いや、本当にいい歌だと思いますよ。 ▼ファンキー加藤「VOYAGE」 【2022.1.1「ABEMA presents NOAH “THE NEW YEAR” 2022」テーマ曲】プロレスリング・ノア ――そう思います。「未完声」を読んで、改めて「VOYAGE」を聴き直すと、プロレスリングノアの創設者、三沢光晴さんはきっと喜んでいるだろうな、と思いました。 それは嬉しいですねー。自分なりに三沢さんに捧げる思いはありましたね。 ――「VOYAGE」を聞くとノア旗揚げ当時の光景が浮かびます。全日本プロレスを退団した三沢さんが旗揚げした団体名が「ノアの箱舟」にちなんだ「プロレスリング・ノア」で、シリーズ名が「Departure」(出航)「GREAT VOYAGE」(偉大な航海)。みんなで大海原に漕ぎ出していくぞ、という団体創設時のコンセプトが「VOYAGE」に織り込まれていますね。 そうなんです。 ――だから「VOYAGE」の歌詞はプロレスファンにこそ響く。ノアファン以外のプロレスファンで聴いたことのない人は必聴だと思います。 嬉しいなあ。これは自分の中でダブルミーニングじゃないですけど、プロレスを知らない人が聞いても普通に「応援ソング」として聴けて、プロレスが好きな人が聞くといろんなプロレスの名台詞やワードが散りばめてあるので、その情景を見せることが出来るように、と思って作ってましたね。 山口総監督 本当にその名台詞やワードの織り込み方が絶妙だなと思いました。 ありがとうございます、嬉しいです。 ――当初「1シリーズ限定」の曲として作られたそうですけど、これは1シリーズだけで終わらせるのはもったいないですよね。 いまだにノアさんが使ってくれているんですよね。ありがたいです。 ――大会開始前にこの曲が流れて、終盤の「エメラルドの水面が」という歌詞に差し掛かるとリング上に三沢さんが立っている画が浮かんで感情が高ぶるんですよ。 嬉しいなあ。この歌詞を書いている時はグッと来るものがありましたよ。 ――そうですよね。 昔、三沢さんと一度対談させてもらったことがあるんですよ。最初は小橋(健太)さんと対談する予定だったんですけど「小橋さんが駄目になった」と聞かされたんです。後になって、小橋さんのご病気が発覚したタイミングだったと知るんですけど。 ――小橋さんのがんが見つかって、闘病のために欠場された時期だったんですね。 それで「誰が対談相手になったんですか?」って聞いたら、そこら辺もすごく三沢さんらしいなって思ったんですけど、三沢社長がとてもお忙しい中、自ら「小橋がダメだったら俺が出るよ」って言ってくださった、と。 ――三沢さんが漢気で出てくださったんですね。 そうなんですよ。そこで初めてお会いさせてもらって、本当、もうド緊張で何喋ったとかあんまり覚えてないですけど(苦笑)。すごく優しく、僕の言葉を汲み取ってくれて。なんか、言葉はおかしいかもしれないですけど、僕のド下手で不器用な攻撃を三沢さんが全て受け止めてくださったような。やっぱり包容力のある人だなー、っていうのをすごく覚えてるんですよ。 ――レスラーも色々ですけど、こちらのつたない質問も「上手く受けて、面白く返してくれる方」がいますね。三沢さんはそういう方だったんですね。それは雑誌の企画だったんですか? 「そのまんまファンキーモンキーベイビーズ」(KADOKAWA)っていう本の企画で、僕がプロレスが好きだから対談させてくれたんです。発売が2008年1月でした。 ――三沢さんが亡くなられたのが2009年でした。 はい。実はその年の三沢さんの誕生日、6月18日に僕、初めて日本武道館のステージに立ったんですよ。「三沢さんが数々の激闘を繰り広げてきた武道館に、三沢さんの誕生日の日に立てたんだ……」と思いながら、ステージから武道館の天井を見上げて「三沢さんはリング上で大の字になりながら、何回も見て来た景色なんだな……」と想像したり。おこがましいですけど、自分なりに三沢さんへの追悼の思い、「三沢さん、ありがとうございました!」という思いを込めて、初めて武道館に立ったのを覚えてますね。 ――そうだったんですね。 三沢さんが亡くなられたのが46歳でしたよね。僕は今年、その年齢になって「ついに三沢さんの年齢を越えてしまうんだな」というのもすごい思いましたね……。 ――加藤さんの三沢さんとの思い出や、日本武道館でのエピソードをうかがった上で「VOYAGE」を聴くと、より感情移入してしまいますね。 ノアさんからオファーをいただいた時は本当に嬉しかったですし「これは俺にしか作れないかな」とも思いましたね。「おまかせください!」っていう気持ちで作りました。 ――「未完声」には「VOYAGEに関してスムーズに出来た」とありましたけど、それだけ思い入れがあると思いが溢れてきてまとめるのが難しそうな気もします。 僕が曲を作る時って、いつも0から1が一番苦労するんですよ。「最初の一歩」はどういうテーマで、どういう絵を描いていこうかっていうところがいつも苦労するんですけど。「VOYAGE」に関しては、もう完全に自分の中の世界観というか、絵が描けていたので。そこに沿って、ただ逆らわずに描いていった感じですね。あとはどれだけ遊び心で、プロレスファンが思わず「ニヤリ」としてしまうようなワードを(笑)、応援ソングという枠内に違和感なく散りばめられるか。あと、何だったらミュージックビデオまでイメージしながら作ってましたね。 ――なるほど。「VOYAGE」からリング上の激しい攻防が目に浮かぶのはそういうことだったんですね。 丸藤(正道)選手と一緒に飲ませて貰った時に「加藤さん、いい曲を作ってくれてありがとう」って言って貰いました。「大会前にあの曲が流れると、選手も『よし、これから始まるぞ!』っていう気持ちになるんですよ」って言って貰えて、本当に嬉しかったですね。 ――言い方は難しいですけど「ノアファンだけが知る名曲」なのはもったいないと思うんです。「VOYAGE」は全プロレスファンに聴いて貰って、三沢さんを思い出してほしいです。三沢さんが嫌いな人っていないじゃないですか。 本当にそうなんですよ! 山口総監督 レスラー仲間からの絶大なる信頼も一番ある方ですよね。 それも凄いですよね……。本当に三沢さんとお会いしたのは1、2時間の短い時間でしたけど「男の人が惚れる男だな」と思いましたもんね。とにかく優しい、包容力がある、そしてちょっとユーモアもあったり。カッコよかったな、三沢さん……。 <後編に続く:近日公開> インタビュアー:茂田浩司(スポーツライター)
プロレスTODAY