MUFGの監督責任問わぬ金融庁の思惑 三菱UFJ銀などに改善命令
金融庁に要請「なるべく穏便に」
しかしそこに、ファイアウオール(FW)規制の緩和を推進するという岸田文雄政権の優先課題が立ちはだかった。 同じ金融グループの傘下にいる銀行と証券会社が顧客情報を共有することを制限するのが現状のルールだが、「資産運用立国」を掲げる政権は法人だけでなく、個人顧客の情報まで金融グループ内における共有のハードルを下げようと模索している。 別の金融庁幹部は「MUFG本体まであまり問題視せず、なるべく穏便に済ませるように自民党の金融族議員から頼まれた」と証言する。 実際にこうした動きを感じ取ったのか、MUFGは早くから監視委の勧告を甘く見積もっていたフシがある。毎年6月の株主総会後に報道各社を招いて開いている定例の大規模懇親会を今年も企画していた。だが、監視委の勧告内容が出るや一転、中止を決めた。 ともあれ、規制緩和のハードルが高くなったのは間違いない。 「国内外から日本市場が注目され、資産運用立国の実現に一丸となって取り組んでいるさなかに、金融業界のリーディングカンパニーでこうした事案が発生したことは誠に遺憾だ」。山道裕己・日本取引所グループ最高経営責任者(CEO)は19日にこう語り、FW規制の追加緩和に慎重な姿勢を示した。 金融機関が銀行と証券の双方の業務を担う欧州大手のような「ユニバーサルバンク」の実現を目指してきた国内金融大手にとって、FW規制の一段の緩和はそうした理想の姿に近づく上で欠かせないステップといえる。 だが、業界を代表する有力グループが顧客の明確な意思に反してまで情報共有していた事実が明るみに出てしまった以上、信頼回復に努めた上でないと業界側から規制緩和の推進を呼びかけるのは難しいだろう。 業務改善命令を受けた3社には再発防止の徹底が求められる。業務改善命令を免れたとはいえ、グループの要としてMUFGのリーダーシップも問われる。
鳴海 崇、齋藤英香