日経平均712円安の発火点、金融市場を揺さぶった「フレンチショック」はなぜ起きた?
■ マクロン大統領が議会を解散してまで回避しようとしたリスク 例えば、グリーン化以外の領域だと、移民政策や対ウクライナ政策での揺り戻しが大きくなると考えられる。移民管理が厳格化されれば、治安は安定するかもしれないが、人手不足に拍車がかかり、高インフレの長期化につながる恐れがある。対ウクライナ政策に関しては、支援の動きが後退し、脱ロシア化の流れにも変化が生じるかもしれない。 2027年5月に任期満了に伴って総選挙を実施する場合、与党の「再生」が惨敗するのみならず、多選規定に伴いマクロン大統領が不出馬となるため、フランス政治の構図が大きく塗り替わってしまうリスクがあった。そもそもマクロン大統領が、劣勢にもかかわらず国民議会を解散した背景には、このリスクを回避する思惑があったのだろう。 それに、極右政党に源流を持つRNに、あるいは極左の「不服従のフランス」を含む左派連合に、フランスの未来を本当に託していいのか、有権者に問いかけることによって、マクロン大統領および「再生」が被るダメージを、可能な限り軽くしたかった思惑もあったのだと考えられる。大統領は、いわゆる「恐怖戦術」を取ったわけだ。 残念ながら、マクロン大統領による恐怖戦術は、今のところあまり効果を発揮していないようだ。総選挙後にマクロン大統領が電撃的に辞任する展開も否定できない中で、投資家は今後しばらく、フランスの政治動向に対して敏感にならざるを得ないだろう。もちろん、日本の株式相場や為替相場にとっても、フランスの動向は大きな調整要因となる。 ※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。 【土田陽介(つちだ・ようすけ)】 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)がある。
土田 陽介